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リーダーシップ構造論:リーダーシップ発現のファクターと開発の施策

キーノートスピーカー
波頭亮(経済評論家)
ディスカッション
團紀彦、南場智子、西川伸一、岸本周平、櫻井敬子、國信重幸

(2)日産の例

皆さんがご存じの例で言うと、典型はカルロス・ゴーンです。カルロス・ゴーンがやったことの8~9割は10年前から日産の金庫に入っていた、というエピソードがありますが、これはある程度本当です。あそこのプランニング・ユニットのインテリさんたち、経営企画絡みの人たちが、「日産がサバイブするためには、これをやらなければいけない」「この工場を閉じないといけない」「チャネルはこういう改革をしなければいけない」と考えたことがほとんど全部入っていた。しかし、それまでの トップには、わかっていながらやりきれなかった。

カルロス・ゴーンというのは、もちろん資本の力を持って上から落下傘でやってきて、GHQのようなことを、そういうバックグラウンドがあったとはいえ、やった人です。けれども、カルロス・ゴーンがやったかやらなかったかで、ご承知のようにたった2年で収益が2兆円違いました。2兆円のうち5,000~6,000億は不良資産の償却のような形で半分下駄を履いていますが、純粋な営業利益、オペレーションの力が、たった一人が一年頑張るだけで5,000億違いました。これがリーダーシップの力です。

ほかにも、松下電器の中村邦夫さんを見てもわかるように、これは誰が見ても、やるべきだ、やらないといけないことだとわかっていても、トップ一人の力でやれたりやれなかったりする。それはトップのインテリジェンスではなくて、まさにリーダーシップ、組織を引っ張る力なので、リーダーシップ自体が非常に大きい鍵になるということです。

そして、私が今日お話ししたいことは、①そもそもリーダーシップとは何か、②どのようなファクターとメカニズムでリーダーシップは発現するか、③企図的にリーダーシップを発現させるための施策はどういうものか、という三つです。

2.従来のリーダーシップ研究 (1)第Ⅰ期(1900~1940年代)

私が今日ご説明申し上げるリーダーシップの話はこういう点がこういう形で特徴的だ、ということをわかっていただくために、ここで簡単に、従来のリーダーシップ研究を振り返ってみたいと思います。

リーダーシップの研究は、約100年前に本格的に始まりました。まさに帝国主義の時代とともに研究が盛んになったわけです。前世紀、20世紀初頭には、社会科学的あるいは人文科学的なものにも、科学的な実験や観察や評価の手法が定着しました。特にここで念頭においているのは心理学です。科学的な検証の方法論が定着したということが、一方にあります。もう一方、帝国主義として強い軍隊の隊長さんが欲しかったわけです。昔の猛将ハンニバルや義経の鵯越(ひよどりごえ)の例のように、誰が率いるかによって1,000人の軍隊が1万人を撃破した例は、古今東西どこでもあります。その将軍あるいは大将というのは、何回やっても勝つ。なぜだろうと昔から不思議に思われていた。それを科学的に検証してみようということが、強い軍隊をつくらなければいけないという帝国主義的な要請とともに、始まったわけです。

このときは徹底的にやっています。このときの主流の考え方は「リーダーシップ特性論」と言われていますが、優秀なリーダーに共通する特性や資質を探し出して、それを持った人間をリーダーに据えればいいんだ、というアプローチです。身体的特性、性格的特性、知的特性、行動的特性等についての膨大な実証研究をしました。企業だったり、教会だったり、軍隊だったり、行政だったり、ボランティア団体だったり、村だったり。「彼には人がついていくよね」という人を徹底的に探し出して、僕がちょっと見ただけでも100項目以上を調べています。背が高い/低い、声が高い/低い、大きい/小さい、知能指数はもちろん、体重だとか、二枚目か二枚目でないかということまで含めて全部やっています。本当によくここまでやったなというぐらいやって、約半世紀検証して出た答えが、「わからん」ということでした。何一つ共通の資質は見出せなかった。