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リーダーシップ構造論:リーダーシップ発現のファクターと開発の施策

キーノートスピーカー
波頭亮(経済評論家)
ディスカッション
團紀彦、南場智子、西川伸一、岸本周平、櫻井敬子、國信重幸

(4)四つのファクター

具体的に、リーダーシップコア、ケミストリー、タスク、組織を見ていきます。

リーダーシップコア この人についていきたいと思わせるには、まず能力(Capability)が必要です。次に人間性(Humanity)、この人と深い関係性を持ちたいと思わせる人物であること。さらに、信頼の根拠たる一貫性(Consistency)があること。

能力のウェートが、最近どんどん高まってきています。戦争のときを考えてみたらわかりますが、こいつについていけば生きて帰れるとなれば、多少嫌なやつでもついていく。能力はやはりその人に従うかどうかの最大要因です。

この点は、1960年代、1970年代の高度経済成長期にあった日本の企業でだけ、やや例外でした。あれはゲゼルシャフト型ではなくて、ゲマインシャフト型です。要するに、うまくやるかどうかが、その人の人生を左右する、要するに村で生きていくような環境で働いていました。能力的なものについていくかついていかないかではなくて、人格的なもののウェートが高かったために、1970年代までの日本の企業の中ではCapabilityよりHumanityのウェートのほうが高かったかもわかりませんが、1990年代以降、競争が苛烈を極めていますので、どんなにいい人でも能力がない人にはついていかなくなっています。

もっと言うと、これは私の実感ですが、固有名詞を挙げて説明するわけにはいきませんが、1990年代後半以降、日本の企業の社長に無能な人はならなくなりました。1980年代までは順番で、穏やかな人がいましたし、「いやあ、彼は人間性がいいから」とか、「彼が座ったら丸く収まるんだよ」という人が結構いましたが、1990年代後半以降は、やっぱりみんな優秀です。優秀でない人は本当に社長にならなくなりましたね。その意味で健全化したんじゃないかと思います。

第一に、チームあるいは集団を成功に導くことができる能力がある場合。次に、それをフォロワーが承認した場合。しかも、この人と深い関係性を持ちたいと思わせる人格を備えていて、発言や行動パターン、対人関係のスタイルに関する一貫性がある場合に、フォロワーがついていくということになります。

古代ギリシアには、人を導くための三つの徳目というものがあって、それはパトスとロゴスとエトスでした。パトスは情熱です。Humanityの内容は、大きくいって二つあると思います。アフェクションとエシックスです。アフェクションは強いて言えば「愛情」ぐらいに訳すのかと思いますが、ここで私が使っているのは、「気持ちをかける」という意味です。愛情に満ちて、その人に気持ちをかける姿勢。それが一つ。もう一つはエシックス(倫理観)です。どんなに自分を可愛がってくれても、「この人はずるい人だよな」と思ったらついていきませんし、有能で、しかも倫理面では高潔な人格でも、「この人の心はきっと凍っているんだよな。もしかしたら血が青いかもわかんないな」と、アフェクションのない人にもなかなかついていかないということで、ここで言う人間性は、挙げ始めたらきりがないですが、基本的にはこの二つに収斂させて理解するのがいいと思います。

Capabilityをロジック、要するに知性・理性だとすれば、ロゴスとパトスとエトスはまさに知性と情熱あるいは愛情と倫理ですから、そうか、ぐるぐる回って昔のギリシア人と同じところに来たのかと、ちょうどここまで考えたときに思ったので、ちょっと言及してみました。

Consistencyについては、「三つの一貫性」を考えました。状況的一貫性、関係的一貫性、時間的一貫性です。時間的一貫性というのは、その人にいつ会っても一貫しているということです。「昨日はあんなに機嫌がよかったのに、今日はなんかひどいな」というのでは駄目だということです。関係 的一貫性は、誰に会っても一貫していることです。「上司にはぺこぺこするけれど、部下にはコイツは鬼だよな」というのも駄目で、誰に対しても分け隔てない一貫性です。状況的一貫性は結構大変なことですが、いいときも悪いときも、結婚のときの誓約みたいですが、いつもステーブルである、状況によって右往左往しない。この三つの一貫性が問われると思います。

チームケミストリー ケミストリーは、合うように測定できるものなのかという話がありますが、実は意外に進んでいるツールがあります。 FFS(FiveFactors&Stress)というものです。日本に入ってきていることを僕は全然知らなかったんですけれども、チームケミストリーの研究はもともとアメリカの海兵隊でやっていました。1900年代の帝国主義を背景にやったものを、ポスト・ベトナム戦争で、「この隊長が率いたら何回も地獄の死線を越えて帰ってきているよな」というのを見て、アメリカの海兵隊中心に実証研究をやったという話を聞いていました。

その結果、強いチームは、隊長が強いとか優秀だというだけではなくて、ケミストリーがよかったという結論が出ました。こういうタイプの性格とこういうタイプの性格が組み合わさると、「性格マッチング度89%」というように、 占いゲームみたいなことができるそうです。

これはFFSのホームページに書いてあったのか、説明の本に書いてあったのか忘れましたが、FFSで開発した性格マッチングを考慮してチームを組むと、性格を考慮しないで、鉄砲を撃つ人と運ぶ人のように経験や技術のスキルタイプのマッチングだけで、ランダムにチームを組んだ場合に比較して、150~200%のパフォーマンスが出ると載っていました。

馬の合わないヤツと何かやったら、1+1=2どころか、0.5とかマイナスになったりするぐらいの実感が僕にはあるので、もっと差がつくのかと思ったんですけれども、科学的な研究で生産性の差を出す場合は、多少コンサバティブに出しているんでしょう。とにかくチームケミストリーはすごく大事だと思います。

これは、言ってみたらすごく当たり前で、実感のある話です。FFSですごく難しく性格のマッチングを6類型に分けるとか10類型に分けるとかして、パレート最適を組まなくても、「あいつとあいつは馬が合うよな、合わないよな」という観点をちょっとチーム編成に入れるだけでも、全然違うと思います。それまでは、組織編成をするときに、キャリアのローテーションや、年次とスキルバランスでチームを組んでいたものを、その中に正々堂々と「馬が合う/合わない」という項目を入れるだけでも全然違うと思います。定量的に89点なのか65点なのかわからなくても、その観点を入れるだけで随分いいんじゃないかというのが私の提唱することの一つです。

タスク特性 タスク特性を、ヒューマンワークとマニュアルレイバーとに大きく分けてみます。ヒューマンワーク(非定型、創造型の仕事)のほうが自発性と自己決定権が大きいために、こういう仕事をアサインして携わらせたほうが、そのチームの中でのリーダーシップの発現は促進されます。それに対して、チームに対してマニュアルレイバー(定型、反復型)の仕事、ねじを回させるだけ、ペンキを塗るだけのような仕事を与えると、クリエイティビティースペースが小さいために、自発性と自己決定権が小さくて、リーダーシップの発生は促進されないし、必要性自体も小さい、という先ほどの話になります。

組織体制 どういう組織体制だとリーダーシップが発現しやすいでしょうか。簡単に言いますと、骨格に関する組織の切り方でいうと、機能部制と事業部制ならば、事業部制のほうがクリエイティビティースペースは圧倒的に大きくなります。機能部制にした途端に、「ねじを回すだけ」みたいなことになりますが、事業部制にすれば、自分の担当は一つであっても、一つの事業の流れの中で自分の仕事のポジションを意識するので、発想が前後に広がります。タスクの複雑性に基づくクリエイティビティースペースがここで決まります。

階層構造についても、階層が少ないほうが、一階層が担当するクリエイティビティースペースは大きくなります。全体のピラミッドでカバーする業務範囲が同じであるならば、階層が少ないほうが一階層の縦の幅が広くなりますよね。縦の幅は業務の抽象度の範囲です。一セクション、一階層、要するに一つの組織ユニットがカバーする縦の抽象度が広いということは、それだけクリエイティビティースペースが広いということです。あまりぶつ切りに細かく切るよりも、フラット型あるいは少階層のほうが、クリエイティビティースペースが大きくなります。

組織サイズについても、シンプルな考え方ですけれども、多人数よりも少人数のほうがよい。これはクリエイティビティースペースの話ではなく、コミュニケーションが豊かなほうが当然リーダーの人間性や能力が伝わるので、コミュニケーションを豊かにするためには少人数のほうがうまくいくということです。

ここまでが、リーダーシップ構造論の骨格です。