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リーダーシップ構造論:リーダーシップ発現のファクターと開発の施策

キーノートスピーカー
波頭亮(経済評論家)
ディスカッション
團紀彦、南場智子、西川伸一、岸本周平、櫻井敬子、國信重幸

4.企業におけるリーダーシップ開発 (1)リーダー育成としくみの整備

これに基づいて、どうやってリーダーシップを企業の中でつくっていけばいいということですが、いままでの話の焼き直しになるので簡単にさせていただいて、質問があればあとでやりとりさせていただこうと思います。

企業におけるリーダーシップ開発施策は、「リーダーの育成」と「しくみの整備」の両建て、車の両輪でやらないと駄目です。リーダー人材のリーダーシップコアを強化・訓練すると同時に、しくみを整備(チーム編成やジョブデザインや組織設計など)すれば、リーダーシップ開発は大きく違ってきます。これが、私の主張するメインのメッセージの一つです。

(2)リーダーシップコアを認識させる二つの方法論:習得と演出

では、どうやってリーダーを育てればいいのか。リーダーシップコアの認識の促進には、「強化・習得」と演出・表現の二つのポイントがありますが、これまでは、「強化・習得」のほうばかりに目が行っていたんだと思います。「一皮むける経験」まで含めて、強化・習得型ばかりでしたが、リーダーシップは、リーダーシップコアを保有しているという事実をもって発生するのではなくて、フォロワーが認識することで発生します。だから、持っていないのであれば、持っている振りをしてしまえばいいじゃないかというのが、演出・表現の発想です。

リーダーシップコアの中にCapability、Humanity、Consistencyがありましたが、Capabilityは意思決定や実行力として出てくるものですから、本当に強化・習得しなければ欺き続けることはできません。知ったかぶりをしても、日々の仕事の中ですぐにばれる。

しかし 性格は後天的にはなかなか変えがたいんですよね。生まれたときに臆病な小犬は、大人になってもずっと臆病です。人間の性格にまつわる形質として「性格」と「認知パターン」と「行動」の三つがあるとすると、今言った順に変えることが難しいんです。逆に言うと、その逆だったら変えられます。「行動」は変えられるんです。行動を通じて、フォロワーはリーダーのなんたるかを認知・認識するわけですから、愛情豊かなリーダーだと思ってもらったり、倫理性に富んだリーダーと思ってもらったりするために、性格を変えなくてもいいから、神に懺悔しなくてもいいから、振りをしろよと。

実際に私が企業のリーダー育成のプログラムをやっているときに、「あなたはこう見られているんだから、これだけ変えなさい」、性格を変えなくていいから、部下の前では必ずこうしなさいと言います。五つも六つも十もあったら無理ですが、少なくて済む人は一つ、多くても三つやってみると、人間性に関係する部分では、部下から上司への認知が半年で変わります。「いやあ、部長って冷たい人かと思ったんだけど、実はここまで考えていてくれているんだ」というふうに、1~2カ月で周りの見る目が変わり始めて、半年で変わります。こんなにもみんなちゃんと見てくれているんだなと思うと同時に、逆に言うと、壊すことをしたら一発でバサッと壊れてしまいます。

では、つくるのは大変かというと、的確で、アピーリングな、まさにエフェクティブな演出を考えて施策のプログラムを組めば、半年あったら変わります。だから「強化・習得」だけではない。Consistencyのほうも、対人の話や時間的な話は本当に心がけと演出だけで変わりますから、演出の手法も考えましょうということです。

(3)有効なコミュニケーションのための話法

リーダーシップのコミュニケーションは、話法を意識するとすごく理解してもらいやすい、ということがあります。逆に言うと、これを外すと、いかにコンテンツ(人間としての能力や人間性)が整っていても全く通用しないので気をつけましょうということです。これは皆さんにとっては当たり前の話かもわかりませんが、私には勉強している途中で目からうろこだったので、しつこくこだわっています。

人間の形質には「性格」「認知パターン」「行動」とあって、その順で変えられないと言いました。認知パターンは、大きく「感情型」と「論理型」とに大別されるそうです。感情型の人が何か 失敗して困っているときに、上司がかける言葉が論理型のアドバイスだったら、「くよくよしている場合じゃないだろう。泣いてもわめいても事態は何一つ解決しない。だから早く立て直して、まず徹底的に情報収集しろ。いままでと違うアプローチを考えろ」と言う。これはこれで的確なアドバイスの一つですが、「こいつは鬼か。そんな理屈で人が動いてくれるのだったら誰も苦労しない。おまえはおれをロボット扱いしとるのか。自分のつらい気持ちの一つもわかってくれないで」と感情型の人は思うわけです。

逆に、失敗してめそめそしている論理型の人に対して、感情型の上司が「いや、誰だって失敗するんだし、君の気持ちはわかるよ。そういうときは無理やりただ頑張るだけではかえって傷つくだけだから、まず気持ちを立て直すまで今晩は一緒に飲もう」と言ったら、「この上司はアホか。飲んで売り上げが立つんだったらおれだって飲んでる。具体的な示唆をしてくれよ」と思う。

だから、論理型と感情型がお互いに善意でぶつかっても、何をもってどう認知するかというアプローチが違うとうまくいかない。あるいは、プロトコルというか周波数が違うんでしょうね。ここを掛け違えると 、もう全然うまくいかない。

そうか、なるほどと思って、僕もこれでいままでうまくいかないことが多かったなと、すごく思いました 。これを知っているかどうかだけで全然違う。

もう一つの分類は、外向型/内向型です。心理学で分類するように、5タイプだ6タイプだ8タイプにすると難しいですが、二つぐらいならなんとなく感覚でわかります。興味の対象による分類の外向型/内向型というのは、人間関係型か人間関係型じゃないかということです。

人間関係型 の人に対しては、「これは君一人の問題ではない。君がこうやって頑張ってくれたら、みんなで喜べるんだ。チームで頑張ろう」と言うと、「そうだ。みんなのためになれば自分も喜べる」と思う メンタリティです。もう一つが、みんながどうかなんて知ったこっちゃない。「これは君にしかできない。君だから選んだ」。ゴルゴ13みたいなやつです。その人に、みんなが、と言ってもケッと思われる。この二つを使い分ける話法によっても、相手の動機づけが全然違います。

また、認識と理解のパターンによる分類の感情型/論理型については、どちらのプロトコルに乗せて話すかによって伝わり方が全然違います 。この話法の使い分けによって、チームケミストリーは随分コントロールできる、という話です。

(4)ジョブデザインによる組織運営体制の決定

ジョブデザインの話は経営学的に深くて面倒くさいので、さらっと言いますけれども、ジョブデザインがすべてを決めるということです。先ほどのヒューマンワークとマニュアルレイバーというのも、もともと全部決まっているわけではありません。自動車一つつくるにしても、フォード型のように、全部マニュアルレイバーにブレークダウンするやり方もあれば、ボルボ型のように、みんなで寄ってトンテンカントンテンカンやるやり方もあります。ボルボ型は、一人当たりの覚えなければいけない知識と工数はフォード型の30倍です。しかし、30倍覚えることによって、その中に工夫の余地が出てくるし、前後のつながりを意識することによって、トータルデザインに対する提案や連携によって生産性改善の余地が出てきます。このように、同じ自動車会社でも、マニュアルレイバー型にもできるし、ヒューマンワーク型 にもできます。

それによって組織骨格も違ってくるし、業績評価とかルールとか人事制度とか全部が違ってくる。だから、ジョブデザインは実はすごく大きいですよ、という話です。

「切り分け方」に注目すると、これはジョブデザインの自由度のほうの話ですが、最近企業がやり始めたやり方は集約です。マニュアルレイバーはどの会社でも量的にすごく大きいので、会社の中にはヒューマンワークだけ残して、そうでないものはアウトソースしてしまおう。そうすると、ヒューマンワーク型とマニュアルレイバー型で、マネジメントのルールも人事制度も報酬制度も全部違ったやり方ができますね、というやり方です。

昔はよく事業ごとに分社化しましたけれども、これからは、ヒューマンワーク度合いによって、どれぐらいオペレーショナルな仕事をしているか、あるいはどれぐらい高付加価値、創造型の仕事をしているかという抽象度の軸で会社を切り分けることによって、一つの合理的なものにつながっていくという議論が、この延長線上にできると思います。

(5)運営ルールとリーダーシップ

いままでの話を総括して、リーダーシップの発現に有効な運営ルールとしてまとめました。骨格については、組織サイズか小さくて階層が少ないほうが、コミュニケーションは豊かになり、クリエイティビティースペースが大きいために、リーダーシップが発生しやすい。

その中で人が動く運営ルールを四つの項目に分けてみました。まず、目標設定に関しては、定量的なノルマ設定ではなく、定性的ミッション規定のほうがいい。行動規定に関しては、マニュアルで箸の上げ下ろしまで全部決めるのでなくて、自主自律型の広い自由度を与えるほうがいい。業績評価に関しては、プロセス管理ではなくて、成果主義型の評価にすべきである。意思決定に関しては、上意下達、指示命令型ではなくて、協調・ディスカッション型にする。

このような運営ルールにすれば、リーダーシップというものは有効に発生・発現できる、ということです。

後半は、細かく言い始めるとものすごく子細な話になるので端折りましたが、以上で、駆け足でしたが、リーダーシップ構造論の概要の説明を終わらせていただき ます。