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日本の安全保障・外交・防衛―主要課題と政策―

キーノートスピーカー
森本敏(拓殖大学海外事情研究所所長、同大学院教授)
ディスカッション
波頭亮、西川伸一、茂木健一郎、山崎元、上杉隆、和田秀樹

キーノートスピーチ:日本の安全保障・外交・防衛―主要課題と政策―

森本 2012年に国際政治は大きな曲がり角に直面する。米露は大統領選挙を迎え、中国も習近平という新しいリーダーを迎える。欧州もフランスやEUなどで大統領選挙を迎え、東アジアでも韓国で大統領選、台湾で総統選を迎える。そのなかでも日本が特に注視すべきは北朝鮮と中国だ。

北朝鮮にとって2012年は金日成の生誕100年に当たり「強盛大国の大門を開く」年と言っている。これを言い始めた2009年に、次のリーダーとして金正恩を選んだ。そして、彼のリーダーシップを示すために2009年11月にデノミを実行し、これがうまくいかずに名誉挽回のために行われたのが2010年3月に韓国の哨戒艦を潜水艦で攻撃した天安沈没事件であり、同年11月の延坪島の砲撃事件だ。

森本敏氏

中国は、2009年の秋頃に次のリーダーを習近平に決めた。その前年に起こったリーマンショックにより欧米への輸出が減少し、中国の輸出産業が多くの労働者を解雇したため、不満の発生に懸念を持った中国政府は巨額の財政を地方の開発プロジェクトに投じ、職を失った労働者を雇用し内需型の経済に構造改革しようとしてきた。しかし注目すべきは、2009年末頃に進められてきた路線変更だ。かつて中国は「韜光養晦」という言葉を使っていた。光の当たらないところで実力を蓄える、つまり軍事力を蓄えながら、それを周りの国に気取られないようにするということだ。だが2009年末頃にこれをやめるという路線変更を行い、国益のなかで「核心的利益」を守ることを重視し始めた。核心的利益とは、台湾、新疆、ウィグル自治区、チベット、南シナ海・東シナ海のことであるようだ。2010年から中国は、核心的利益を守るためには対外関係が犠牲になってもいいと考え始めた。この路線変更により中国は2010年以降、多くの諸国と外交的にぶつかるようになった。2010年1月には中国は米国の台湾武器売却に反発し、Googleを規制した。天安沈没の事件でも2010年7月のARF(アセアン地域フォーラム)でも米中はぶつかり、同年9月に尖閣諸島問題が起こる。中国共産党は、尖閣諸島問題は領有権を証明しようとした日本の陰謀であり、陰謀の背後に米国がいると意思決定した。そして船長を取り戻すために、宣戦布告をする直前のような措置を全部取ってきた。

このように北朝鮮と中国は、2012年に新しいリーダーを迎えるにあたり様々な手を打ってきている。そのことが今も東アジアを緊張させている。

次にロシア。今年末に議会選挙、来年の3月に大統領選挙を控えているが、メドベージェフ大統領とプーチン首相のタンデム(2人乗り)政権の支持率は低迷しているが、次の選挙はプーチンが再度大統領に立候補するかもしれない。これを有利にするためにはロシア経済を建て直す必要がある。そのためには外資を導入しアジア部の資源開発をしないといけないが、欧州も米国も関心がないとなるとアジア諸国から外資を導入する必要がある。そこでプーチンがやろうとしているのが、2012年のウラジオストックでのAPEC開催であり、その関連で北方領土開発を進めている。中国と韓国はこの開発プロジェクトに参画してくるだろう。またロシアは、日本と中韓を外交的に分断するだけでなく、APECの閣僚会合を北方領土でやるかもしれない。このようにロシアとは、過去の日露関係で最も難しい状態に入り込んでいる。

最後に米国について。菅総理は6月の訪米を明言しているが、その際の日米首脳会談において日米共同宣言を出す予定だ。共同宣言には、日米がこれから、中国にどのように向き合うのかという共通ビジョンが盛り込まれるはずだ。共通ビジョンには二つのテーマがある。第一のテーマは北東アジアのコンティジェンシーに日米がどのような取り組みをするか。つまり、中国・朝鮮半島事態を念頭に置いた共同作戦計画を作る、周辺事態法を見直すということであり、中国を刺激しないようにするため、実際には中国とは書かないが目的は明らかである。第二のテーマは、アジア太平洋地域及びグローバルでの役割を日米でどう果たしていくかだ。中国の問題も含め、それ以外の諸問題、環境、災害救助、PKO活動、核の拡散防止、テロ・海賊などに日米でどう取り組むか、もう一度役割分担を決めることだ。この二つのテーマについて、共通ビジョンという形で共同宣言のなかに書き込まれるだろう。

ただし日米の間には普天間問題という大問題が横たわっている。普天間については代替施設を辺野古の周辺に造ることを日米で二回も合意しているが、県外移設を求めている沖縄は猛反発する。日本政府は厳しい選択を迫られるだろう。

最後に日本の防衛力について。今度の防衛大綱は動的防衛力、南西方面重視というテーマで括っている。陸上防衛力を減らして、海空の防衛力を重くしようということだ。この背景には米中の動向がある。中国は、九州を起点に沖縄、台湾に至る線を引き、第一列島線と呼んでいる。彼らのアジア戦略は、この第一列島線のなかを内海化するというものだ。そしてこの先、第一列島線の前後が日米と中国の軍事バランスが拮抗する状態になると思われる。その地域で米国が取ろうとしている戦略が、Air and Sea Battle。これは、比較的長距離の攻撃能力を持つミサイル・航空戦力で、被害を出さずに相手を叩く戦略だ。この戦略が採用されるかどうかわからないが、全体としてはこの方向になる。そのために米国は沖縄の嘉手納にF22ラプターという第五世代の戦闘機を配備する。日本は海上にイージス艦を6隻置いて、弾道ミサイルを迎撃するシステムを装備し、潜水艦も16隻から22隻まで増やして海上防衛力を増やす。

このように、限られた予算のなかで選択と集中をし、米国とともに中国から、領有権、海上輸送路、資源を守るという主旨が今回の防衛大綱からは読み取れる。こうした激しい対峙状態が今から20年ぐらい続くだろう。