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政権交代から2年―ポスト311における日本政治の方向性

キーノートスピーカー
山口二郎(北海道大学大学院法学研究科教授)
ディスカッション
波頭亮、伊藤穰一、團紀彦、西川伸一、茂木健一郎、山崎元、上杉隆、和田秀樹

ディスカッション

和田 自民党が子ども手当てを「年収1億の人にも払うのか」と言うけど、自民党政権時代、1988年から1999年の大減税で年収1億の人は3000万円減税になっている。なぜ民主党はこれを説明しないのですか。

山口 民主党にも頭のいい人はいますが戦いの仕方を知らない。政治は権力闘争だということがわかってない。

波頭 民主党も駄目だが、それをメディアも言わない。そういうスタイルで論ずるメディアがない。

山崎 メディアが官僚の側に立っているとしか思えません。

上杉 目の前の近視眼的なものに対してはメディアも正しい取材活動をしていますが、全体的に見た場合、明らかに機能不全というか、逆機能を果たしています。

森本 先ほどの図についてですが、残念ながら「第3の道」は民主党のルーズなマネジメントで挫折しました。今後どういった道に進むと思われますか。

山口 官僚の持っている裁量権力が消えるとは思わないので、図で言えば小泉改革の時代に戻ると思います。つまり、霞ヶ関が権力を持って、増税はするけどベネフィットはないといった形で国民へのリスクの転嫁が起こる。そういうストーリーが一番リアルです。

山崎 次の道を考えるときに経済についても少し考えてみたいのですが、正社員の雇用、解雇規制の緩和については一つの論点にはなると思います。これについてはどういう立場に立つべきだと思われますか。

山口 正社員というものが少なくなることは、ある意味仕方ないのかなと思います。ただ、非正社員でいろいろなフリンジ・ベネフィットがなくても、もらう賃金プラス社会政策できちんと生きていける社会をつくる、そのためのコストは企業も普通の人もみんなで払うという理念はこれから必要だと思います。

森本 民主党の東アジア共同体構想についてはいかがですか。今後の東アジア情勢は、拡張主義の中国、アジアから退こうとしている縮小主義の米国、国内を再構築しようと思っているロシア、この3ヵ国のパワーバランスで決まるでしょう。そのなかで日本は何ができるか、民主党は真剣に考えるべきだったが、政策の中でここが完全に欠落していたと思います。

山口 東アジア共同体が言葉だけだったのは認めざるを得ません。中国の台頭をどう受け止めてアジアの秩序を作っていくか、難しい問題ですが議論が必要です。

茂木 日本の政治をめぐる言説の大きな特徴は、プリンシプルに戻らないことだと思います。政治について語るとき、官僚の問題とか竹島問題とか、現象の議論はするけれど、そもそも人間は社会でどう生きるべきかといった原理的な考察がなされた形跡がない。 

山口 プリンシプルに立ち戻って考えないというテーゼは伝統的な批判です。そしてプリンシプルがないのがプリンシプル、みたいな開き直りが実は自民党を支えてきました。基本的には資本主義ですが、いろいろ修正・再分配して、自由と平等のバランスをとる。よく言えばプラグマティズム、悪く言えば無原則。

森本 自民党はプリンシプルがなくても、同盟に対して絶対的な依存があり、それがベースとしてありました。

山口 それは冷戦があったからです。冷戦が終わった後どうするかというプリンシプルは自民党にもなかった。

西川 民主党の成り立ちを見るとプリンシプルはできようがないですね。小沢一郎さんが「国民の生活が第一」というスローガンで、もう一度それをコアにして修正を図ろうとしたという気持ちはわかります。

波頭 現行の民主党は自民党の補集合、アンチ自民党だけが共通で、自民党以上に多様です。

山口 日本の場合、思想や理論を商売にする人が党派性を持たない。だから役所の審議会のメンバーを見ても政権交代の影響がない。党派性があれば、こっちの手伝いはするけどそっちはしないという形でプリンシプルが現れるのですが、日本の場合は知識を持っている人が党派性にコミットしない。

上杉 与謝野馨さんもそうですね。日本の政治家の中で最も政策通といわれた人がああいうプリンシプルも党派性もない行動するあたり、日本の言論界の幼稚さを表出しているのかなと思います。

團  僕は政治家は、2つの権力の調停者であってほしい。1つの権力は、市民であり納税者。もう1つは、国家のロジック。この2つの違ったベクトルをどう調停するかが、政治家の立ち位置だと期待しています。

山口 今回の原発の問題を見ると、国家の論理で全部コントロールされていて、政治家が調停という足場を持っていなかったことがわかります。

茂木 Joiどう思う? 世界から見ると民主党も自民党も関係ないじゃん、とか思ったりする?

伊藤 私は中近東にいることが多いのですが、そこではもはや政治がどうこうというのは関係ないですね。ひっくり返されますから。革命です。私も以前、ダボス会議の席で「日本でも革命が必要だ」というようなことを言い続けていましたが、たまたま隣に座った緒方貞子さんに「日本のことだけ話してるのはローカルすぎる。世界に出ていきなさい」と言われて、「あ、そうか」と思って出て行きました。私もいろいろ忙しいし、自分の人生の残りが何年あるかを考えると、できることに限りがある。そのなかで社会にインパクトを与えるにはどうすればいいか。今は個人的に米国の優秀な人たちを集めてネットワークをつくって、中近東にもネットワークをつくっています。そして日本が本当に危なくなったときに、そのエネルギーを持ってきて日本の立て直しを考えるのが、一番効率のいい自分の時間の使い方だと考えています。