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崩壊へ向かう永続敗戦のレジーム~第二次安倍政権の軌跡

キーノートスピーカー
白井聡(文化学園大学助教)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、西川伸一、茂木健一郎、山崎元、森本敏

ディスカッション

山崎 日本国民が怒ることを忘れた家畜となったのは、マクロな怒りに対してミクロな損得が勝つからでしょう。米国の連結対象ではないが実質被支配子会社みたいな立ち位置が、これまで最も得だった。しかし冷戦が終わり、米国が日本と中国のどちらを取るかというと、損得でより重要なのは対中国関係。日本と中国との間に何か事が起こっても米国が中国と全面的に対立して日本につくことは期待できない。じゃあ、私も含めて腕力も度胸もない小市民の集合である日本はどうしたら得なのかを考えると、敗戦国の立場をわきまえること。おそらく全方位に屈服するのが経済的にはいちばん得です。

波頭 全方位屈服論ですね(笑)。

山崎 あくまで損得論ですが、たとえば中国で商売をやらせてもらうために「われわれが悪かった。敗戦国なのだ」とあらためて確認し、中国に膝を屈して商売をさせてもらうのが一番得。日本の経済界が本音で求めているのはおそらくこういうことです。

西川 戦後の西ドイツも当初は、ギュンター・グラスの小説で書かれているように、屈服主義的なところがあったのですが、ドイツにはEUというオルタナティブがありました。日本にはオルタナティブがないので、それをどう作るかという発想が求められているのではないでしょうか。

波頭 私もEUのことを考えていました。ドイツは全方位屈服の立ち位置でEUに加入し、今は実質的に覇権を握っています。幸か不幸か日本にはその力がないので、たとえば東アジア連合「AU」の実質支配を伴わない事務局やコーディネーターというポジションが、日本のオルタナティブではないかと思います。

島田 ヨーロッパには帝国がありませんが、アジアには中国という圧倒的な帝国がありますので、少し事情が異なりますね。

波頭 そこに対する抑止としては、ある意味日本が米国やEUのエージェントとして中国との間に立つという役割が考えられます。いずれにせよ緩やかなアジア共同体的な連合があった方が、明らかに日本にとって得でしょう。

茂木 白井先生はアベノクラシーやそれを受け入れる国民について反知性主義の蔓延とおっしゃいましたが、同感です。かつてジョージ・W・ブッシュがイランやイラクを指して「悪の枢軸(axis of evil)」と呼んでいましたが、最近の安倍政権やロシアのプーチン政権を見ていると、「愚かな枢軸(axis of stupidity)」と呼びたくなります。領土だ、武力制圧だと、いつの時代の話をしているのか。軍事力で植民地を獲得することが経済行為として有効であった、明治時代の富国強兵の頃ならそうした話も意味があったと思うのですが、今はそういう時代ではありません。核兵器がある現代においては、そもそも戦争などできるわけがないのですから。

そういうところに目を向けるより、政府としてもっとやらなければならないことがある。近年における最も注目すべき出来事というのはビットコインであり、ウィキリークスであり、エドワード・スノーデンです。そっちのイシューに国家のリソースを少しでも振り向けるようにして、ある種の英知を育て上げないと、国家の繁栄はこの先あり得ません。自衛隊を増強して尖閣諸島の領有権争いをしても、国は栄えません。

白井 確かに合理的に考えれば戦争など起こせるはずがないのですが、現実は必ずしも合理的でない。いわゆる「失われた二〇年」の間にいろいろな改革が行われましたが、何一つ成功していません。教育改革、司法制度改革、雇用、すべてぼろぼろで、最悪の選択肢を選び続けてきました。内政でこれだけ最悪の選択肢を選び続けてきたのなら、対外関係においても最悪の選択肢を選ばないはずがないと覚悟すべきではないでしょうか。

島田 そして現在の安倍政権で最たる改革案が改憲ですからね。集団的自衛権というところがいちばん最悪なものになるかもしれない。

茂木 憲法を改正したって、国はもうからないですよ。

波頭 先ほどオルタナティブの話が出ましたが、これを現実的にどう作るのかが、今の政治のなかにはまったく見えないですね。

森本 オルタナティブは見えないのですが、逆に消去法で見て、やってはならないことがいくつかあります。その一つが慰安婦問題に関する河野談話の見直しです。日本は時代が変わると歴史認識を変える国かと思われます。また、来年、二〇一五年に日韓基本条約五〇周年の歴史の節目を迎えるのですが、もし慰安婦問題の見直しに日本が着手すれば、韓国は日韓基本条約を破棄して、日本に対する請求権を取り戻そうとする動きになる可能性もあります。場合によっては、日本を仮想敵として南北が統一し、それ以降、北東アジア問題について日本に一切関与させないという態度をとるかもしれません。