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深刻化していく米国の分裂現象~米社会の分裂現象は、今後も30年間続く

キーノートスピーカー
伊藤貫(国際政治/米国金融政策アナリスト)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、團紀彦、茂木健一郎、山崎元

茂木 お話は興味深かったのですが、個人的には、イスラム圏からの入国禁止などトランプ政権の政策に賛同できかねます。グリーンカードをもっている人や、すでにアメリカの研究機関で働いている人まで入国できない事態にまで発展している。バノン氏がどういう哲学をもっていようと、彼らの影響力によりもたらされた現実に目を向けることが重要だと思います。

民主党がウォール街に支配されているか否かは、データをもっていないため何ともいえません。ただ、伊藤先生のおっしゃることにこの場で誰も反論しないとそのままになってしまうので、一言、反対意見をいわせてもらいました。

伊藤 僕は単に、トランプ現象を発生させた三つの構造的な要因を説明しただけです。「トランプの政策は素晴らしい」なんて言ってないけど(苦笑)。

 私は茂木さんが感じているような怒りは感じません。むしろリベラルからはタブー視されていたナショナリズムを一定程度解放したトランプは文明論的に見れば興味深い人物だと思います。

世界を都市に見立てると豊かな共生が成り立つためには一定の要素間の対立が必要不可欠です。グローバリズムはこうした諸要素のアイデンティティーをニュートラルに去勢してしまったので対立すらあってはならないといった誠に不自然な流れになったのです。都市も内部に文化的に対立する要素間の対立があるからこそクリエイティヴな調停がなされた時には豊かな共生関係が生まれるのです。

行き過ぎたナショナリズムは戦争につながりかねないので警戒する必要はありますがナショナリズムなきリベラリズムもまたガソリンのないエンジンのようになりかねません。文明論的に見ると対立にはそうしたガソリンのような役割もあるのではないかと思います。

波頭 伊藤先生ご自身がトランプ大統領の政策に賛同しているかは置いておいて、いま起きている現象に対して、マスコミが解説しない側面に有効な光を当てていただいたと思います。

伊藤 僕は長期的には、トランプ大統領の政策が成功するとは思っていません。しかしこのような政治を生み出した危険な分裂現象を理解する必要があります。

波頭 社会構造的必然性があるということですよね。最後にお聞きしたいんですが、トランプ大統領が試みようとしているのは結局、独占的な金融のパワーによる政治支配を打破しようということなのでしょうか。また、それはうまくいく可能性はあるのでしょうか。

伊藤 トランプ自身は「米政治と経済システムはアンフェアである」と主張してきました。この主張は、自称「社会主義者」バーニー・サンダースと同じです。しかしトランプ政権の経済運営の要職に就いたのは、ウォール街の金融業者です。これは矛盾した行動です。トランプが本当の改革派でないならば、貧富の差は今後も拡大します。

ひょっとすると四~五年後には、白人の労働者階級は「トランプにも裏切られた」と言い出すかもしれない。そんなことになったら、その時こそ、本物のファシスト政治運動が起きるかもしれない。アメリカ帝国は今、危険な岐路に立っています。