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転換期を迎えた4つの方法論:揺り戻しかアウフヘーベンか

キーノートスピーカー
波頭亮(評論家)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、神保哲生、西川伸一、茂木健一郎、山崎元

島田 最近、新聞(新聞協会加盟116紙)の購読者数が2年連連続で200万人も激減したというニュースがありました。大手新聞一紙分が潰れるくらいの部数が減っています。同時にテレビ局の視聴率の低下も著しく、このような危機的状況に対して、当の新聞社、テレビ局はどう考えているのでしょうか?

神保 もちろん彼らは危機感を強く持っています。しかし、何もできないというのが現状です。ただ、先々を考えると、紙媒体や地上波にアドバンテージがあるうちにネットに進出して、ネットでも主導権を取らなくてはいけないという認識はあるはずです。

現状、多くの記者を擁し、人を育成する仕組みを維持できているのは既存メディア(新聞社)だけです。若手が地方支局で鍛えられ、頭角を現した才覚のある人が中央に上がってくる。そんな人を育てる仕組みを持つことは、まだ小さくやっている我々のようなネットメディアでは困難です。

そもそもネットに移るという行為は、既存メディアにとっては100円で売れる商品を10円でしか売れない市場に出すようなものです。しかも、ネットが自分たちのシェア(紙媒体)を食う行為にもなります。

紙媒体をネットに置き換えると、単純に売り上げが大きく落ちるのです。先ほど言ったように、既存メディアは政府に守られていますが、ネットメディアは完全な自由競争の世界だからです。

我々ネットメディアが競争しているのは、他のネットメディアだけでなく、eラーニングであったり、ダンスをSNSに上げている個人であったり、そのような無数のサービスと市場を取り合っています。

一方、テレビ局は地上波、衛星放送など、数えるほどしか敵がいない世界です。当然ながら価格競争力はネットとは大違いです。

ラフな言い方になりますが、私はネットと既存メディアの差は100倍と言っています。テレビ番組にしても、記事にしても、ネットに移行すると、10分の1のコストで10倍の頻度(量)の記事や番組を作らないと採算に乗らない。これは冗談ではありません。

テレビでいうと現在、報道番組1時間あたりの製作コストは随分下がってきていますが、それでもまだゴールデンタイムの場合1500万円くらいを使っています。

一方、我々(ネットメディア)の場合、1時間15万円くらいで報道番組を作らないと、インターネットの世界ではペイしません。なので、100倍はまんざら冗談ではない数字です。

新聞という既存メディアの場合も、同様にネットで勝負しようと思っても、真っ向勝負はとても難しいのが実態です。現状の紙の新聞の値段は再販制度によって守られている料金です。購読料は月額4000円程度ですが、ネット版ではそんな高い金額が取れるわけがありません。

では、ネット版にすると、いくらくらいになるのか。紙の紙面と同じような情報で、なおかつ無制限に過去記事もすべて読めて、月額500〜1000円程度しか取れないでしょう。

このように、ネットでの真っ向勝負は既存メディアにとって自殺行為に等しい。なので、本格的な参入はできないのです。

結局既存メディアはネットには入れないため、紙の新聞を売るためにインターネットを活用する形にせざるを得ないというのが現状になっている。ネットのコンテンツは本や新聞を売る補助という位置付けです。

私から見ると、既存メディアは、危機感を超え、もはや断末魔の感があります。環境の変化はわかってはいるけれど、変わることはできない。新聞社、テレビ局の若い人はネットで配信したいというのですが、経営判断としてできません。

テレビ朝日がサイバーエージェントと組んでやっている「AbemaTV」は、テレビでできないことが自由にできるというテレビマンにとっては夢のような世界です。しかし、毎年大赤字です。

ネットでペイするコスト構造にはなっていないからですが、今はサイバーエージェントが戦略的意味から大赤字覚悟でお金を出しています。果たして、それがいつまで持つのか。イーロン・マスク氏の事業と同じように、現状は藤田晋社⻑という個人の特殊な発想のみが支えているパターンです。

ハフィントンポストの日本版はかろうじてペイしているケースですが、バックは朝日新聞です。朝日新聞がお金と人を出しています。また、バズフィードジャパンはヤフーが運営していますが、ソフトバンクの事業がきつかったとき、バズフィードの事業は思いっきり縮小されました。

ドワンゴのniconico動画の事業も、どんどん縮小され、代わりにスタッフの多くが今はN高の事業(オンラインの高校教育事業)に行っています。

報道は当たり前ですが、その利益率は非常に低い。優秀な人が能力、時間、労力をかけてニュース番組を作っても、オンエアの翌日には売れなくなってしまう。商売と考えると、割が悪すぎてあり得ないのが報道なのです。

我々は20年前に目⿊のマンションの一室で「ビデオニュース・ドットコム」を始めましたが、今もそのマンションの一室から出られていません。今もマンションの一室でやっているからギリギリでペイしています。