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日本のメディアの構造問題とジャーナリズム

キーノートスピーカー
神保哲生(ジャーナリスト)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、神保哲生、西川伸一、茂木健一郎、山崎元

クラブの意思決定をする常駐16社

日本の場合、新聞社は戦時中の治安維持法下で発令された新聞統制令によって一県一紙体制に強制的に組織されました。

いろいろな理由があったようですが、端的に言うと、内務省の検閲を効率化するためだったようです。それ以前、日本には400だったか500だったかの新聞があったそうです。そうなると内務省は毎回それをすべて検閲しなければならない。ところが無理矢理合併させて一県一紙にしてくれれば、47紙検閲すればいいわけです。

これを県紙制度といいますが、ただし、近畿圏と関東圏だけは一県一紙の対象にはならなかったようです。

戦後になって、各新聞社からは元の体制に戻りたいという要望もあったようですが、GHQも検閲をする必要があったので、あえて一県一紙体制を維持したそうです。結果的に、それが現在まで続いています。だから地方紙はほとんど競争がなく、多様な言論が育ちにくいと言われています。要するに新聞業界は未だに戦時体制なんですね。

いま県紙が2紙ある県は福島県と沖縄県の2県のみです。福島は地理的な理由から、沖縄は戦前の新聞統制令の対象外だったからというのがその理由だという論文を読んだことがあります。他は基本的にどこも一県一紙体制のままです。

県紙も日本新聞協会加盟社なので記者クラブに加盟していますが、県紙は規模が小さいので、中央の官庁の記者クラブに記者を常駐させているような地方紙はほとんどありません。その代わりに彼らに中央のニュースを配信する通信社があります。共同通信と時事通信です。

地方紙に対して北海道、中日、西日本3つのブロック紙は、発行部数も数十万から百万部の越える規模を持っていますが、全国紙ではないので、地方紙と全国紙の間の存在としてブロック紙という位置づけになっています。ただ、中日新聞は発行部数も約279万部と全国紙の産経新聞の124万部を遙かに超え、東京新聞を傘下に持つなど、規模としては全国紙を凌いでいます。

つまり、今やインターネットもあり、情報源は多様化しているように見えますが、行政情報は大元のところでこの16社によって握られているといっても過言ではありません。そこから出てきた情報を元に、ブロガーだのフリーランス記者だのがああだこうだ論説を述べたり意見を述べたりしていますが、そもそも情報の出所のところでフィルターがかかってしまっていることには注意が必要です。本来は報じられるべき情報でこの16社が伝えていない情報が沢山あるということです。要するに、「何をニュースにするか」の決定権を相変わらず記者クラブが握っている状況は、インターネットが登場する以前と大きくは変わっていないということです。