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ゲノムが変える歴史学:ペーボさんが開けた歴史の扉

キーノートスピーカー
西川伸一(生命科学評論家)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、神保哲生、團紀彦、中島岳志、西川伸一、茂木健一郎、山崎元

学際研究の重要性

ペーボさんは、本日お話しし的たような研究を、マックス・プランク進化人類学研究所(Max-Planck-Institut für evolutionäre Anthropologie)で行ってこられました。同研究所は、現在は沖縄科学技術大学院大学(OIST)のプレジデントを務めているペーター・グルースさんからペーボさん自身が依頼されて設立されたんですが、この設立の経緯自体も面白いです。つまり、これまでドイツでは民族の問題というのはタブーだったわけですが、グルース氏が「もうそろそろ民族の問題も研究対象としていいのではないか」という声を上げたことで、この研究所の設立に至ったんですね。

この設立時にペーボさんが選んだセクションというのもまたすごいです。

  • 考古遺伝学部門(Department of Archaeogenetics)
  • 比較文化心理学部門(Department of Comparative Cultural Psychology)
  • 進化遺伝学部門(Department of Evolutionary Genetics)
  • 人類行動生態文化学部門(Department of Human Behavior, Ecology and Culture)
  • 人類進化学部門(Department of Human Evolution)
  • 言語文化進化学部門(Department of Linguistic and Cultural Evolution)

ご覧になってわかるとおり、DNAの研究者だけを集めているわけではまったくないんですね。現在は所長の職も、認知心理学者として世界的に著名なマイケル・トマセロさんが就いておられます。日本ではこういう分野横断的な研究機関のようなものは、総合大学を除けばほとんど皆無と言ってしまっていい状況ですが、ペーボさんたちの試みが成功した秘訣の1つは、実はこうしたinterdisciplinaryな研究拠点を有していたことにあるのではないかと思っています。

こうした分野をまたぐ交流や協力というのは、たしかになかなか難しいものだと僕も思います。しかしドイツでは「一緒にランチに行くだけでも物事は変わりうる」という発想に基づいて、こうした研究所が作られているわけです。ここには学ぶべき点が大いにあると私は思っています。私自身、東大と藝大で立ち上がったAMS(Art Meets Science)という学際プロジェクトに運営委員として携わってはいますが、こうした取り組みが国の規模で行われるところにまでは、日本は残念ながらまだまだ至っていないなというのが私の実感です。

本日の発表はこれで終わりますが、やはりペーボさんがこれほど大きな変革をもたらしたことは、本来もっと日本で紹介されなくてはならなかっただろうと思います。私自身、若い人たちに対して、歴史学なんかを人文系のやっている人たちにもっといろんな形でミックスしていくべしという話はしていますが、そういう動きがもっと出てこないと、諸外国に取り残されていくばかりでないかと思っています。このフォーラムのメンバーでもある伊藤穰一さんが所長を務めておられた、マサチューセッツ工科大のメディアラボにしてもそうですが、ああいう分野横断的な動きを活性化していくことは、やはり1つ日本には非常に大事ではないでしょうか。そのメッセージを最後にあらためてお伝えして、本日の発表の締めくくりとさせていただきます。ありがとうございました。