渡辺 今の日本を本当に改革しようとするならば、政治改革、経済戦略以前に「霞が関改革」が不可欠である。「局益あって省益なし」「省益あって国益なし」で動く、部分最適化の霞が関官僚体制を変えない限り、どんな合理的戦略も霞が関官僚の既得権を守るために、骨抜き“こされてしまうからである。
民主党政権は「政治主導・脱官僚」を掲げて政権の座についたが、それが実現しているとは言い難い。むしろ、政治の舞台裏における財務省主導の形が強まった観さえ感じられる。巨大な霞が関官僚構造全体を牛耳っているのは、実は財務省である。財務省の3 人の課長カミ総務省と人事院に出向して霞が関官僚構造全体の「給与」と「定員」という人事制度の司令塔となっている。そこに政治家が介入する余地はないのである。
したがって、政治家が霞が関の官僚を使いこなし、政治主導を実現するためには、官僚たちの実質的人事権を内閣に取り戻さなければならない。そのためには「国家公務員法」の改正がどうしても必要である。
もちろん、様々な形での凄まじい抵抗に遭うことになるが。
南場 官僚体制批判の話は企業に例えると、社長(政府で言えば大臣) が経営企画のスタッフ(官僚)を批判しているようにも聞こえてしまいます。単に優秀でない社長が、優秀な経営企画スタッフを使いこなせていないだけだとも考えられますが。
渡辺 まだ若くて1000人以下の組織であれば、そういう見方もできるでしょうが官僚組織は何十万人規模の組織であり、一般的に大企業と言われる組織をはるかに超える巨大組織です。大企業でさえ創業から長い時間が経ち、組織が巨大化し、事業が複数に跨っていくと社長の意向や号令だけでは組織が動いていかないことも多いと聞きます。その社長が必ずしもボンクラばかりかというとそうではないのでは。明らかに組織のしくみ自体に問題があるのだと思います。
和田 官僚が全員ダメなわけではないだろう。心ある官僚を確保して内部から変えていくやり方もあるのでは。
渡辺 もちろん現職の官僚にも心ある優秀な人材はいる。しかし、そういう人たちは偉くなれないのが現実です。官僚組織では本人の能力・実績と昇進スピードは何の関係もない。一方、課長でも能力のない人を降格しようと思ってもこれもできない。一番の問題は試験区分や入省年次という身分で人事をやっていることです。まずはこの身分制を破壊し、「オープンな競争」を通じ、優秀な人材の選抜・育成を行うことが重要です。
波頭 霞が関のような巨大な組織を改革しようとすると、必ず抵抗勢力が発生して妨害されるのではないですか。
渡辺 その通りです。様々な手口で激しい抵抗に遭いますが、典型は「リーク・悪口・サボタージュ」です。相場観づくりのため「刷り込み」情報を、マスコミにリークします。政治家は世間の評判を気にしますので、マスコミを巻き込んでの反対キャンペーンを張られると分が悪いですね。
波頭 一度世論がアンチの方向で形成されてしまうと改革は進まなくなってしまいますね。何か、対抗策はあるのですか。
渡辺 あります。抵抗勢力が抱えている問題を世論に訴える。例えば、霞が関御用達の居酒屋タクシー問題や農水省を中心としたヤミ専従の問題は、マスコミと世論の後押しがあって解決の方向に進みました。
波頭 なるほど。企業の風土改革も社内広報戦略が成功の鍵を握るのですが、それとまったく同じですね。