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日本のメディアの現状と未来

キーノートスピーカー
上杉隆(ジャーナリスト)
ディスカッション
波頭亮、團紀彦、南場智子、西川伸一、茂木健一郎、山崎元

キーノートスピーチ

上杉 1999年にジャーナリストになってからいままで私が中心的テーマとして追いかけてきたのが日本の政治や官僚とメディアの問題である。日本国内で日本の報道だけに接し、日本の新聞・テレビを一流だと思い込んでいる大多数の国民には信じられないことかもしれないが、それら大手メディアはジャーナリズムの役割とも言える「公権力に対する監視役機能」と「国民に知らせる義務」を放棄している状態である。大手メディアによって組織されている「記者クラブ」では官庁や官僚にとって都合のよい報道しか行わない。

記者クラブの実態は「情報カルテルとして、新聞・テレビ等の大手メディアが非加盟の雑誌、海外メディア、ネットメディア、国内外のフリージャーナリスト等を排除」し、「官庁からの情報を独占的に頂く場所、つまり“霞が関の広報”」であり、「霞が関にとって不都合な報道をしたり、記者クラブのルールに反した記者やメディアに対しては“出入り禁止” 等の制裁」や「異なる会社の記者同士力取モを互いに見せ合い同じ内容の記事を書く“メモ合わせ”」といった異常な慣習が蔓延した集団である。そのため記者クラブ内では報道内容そのものに対する競争が消え、結果的に政治家や官僚による世論操作や不祥事のもみ消しの温床となっている。

上杉隆氏

当然ながら、「国境なき記者団」やFCCJ(日本外国特派員協会)、EU議会、OECD(経済協力開発機構) 等、世界中から長年にわたって批判され続けているが、あらゆる他の問題と異なり、当事者である大手メディアが自らの恥部を晒すはずはなく、日本にしか住んだことのない大半の日本人はその特殊性に気づくことはない。

このような事実を踏まえて、私は「日本にはメディアはあってもジャーナリズムは存在しない」と繰り返し主張しているのだ。

ディスカッション

南場 海外メディアが日本から撤退し始めていると聞きますが記者クラブと関係があるのでしょうか?

上杉 あります。今年1月の中国の『人民日報」に面白い社説が載りました。日本では一切報じられていませんが、いまの質問のことが書いてあります。「ニューズウィーク、タイム、ワシントンポストが日本から撤退し中国に移設してきている。わが国の力が伸びていると同時に、日本の『記者クラブ』制度の影響があることも注目すべきだろう。わが国のような
自由な取材体制と違って、日本のメディアは記者クラブ制度を持ち閉鎖的である。それゆえにわが国に海外メディアが集まり始めているのだろう」と。日本人は「共産主義の中国が何を」と笑うだろうけれど、海外メディアの間では「日本よりは中国のほうがマシ」と評価しているのが実態です。日本のメディアの問題はそれほどひどいと認識されています。

西川 なぜ日本では、これほどの記者クラブの横暴が許されてしまうのか?

上杉 記者クラブ問題は、実は報道だけの問題ではなく、霞が関も絡んだ問題なのです。私は「官報複合体」と言い続けているのですが、政治と世論を都合よくコントロールしたい官僚と“特オチ(マスコミ用語で、同業他社がみな報道しているニュースをある1社だけが報道し損なうこと)“ を恐れるメディアのもたれ合いで成り立っています。その結果、国民は知る権利を失い、政治家主導の政治が実現できなくなっているのです。

 日本は法治国家なんだから「記者クラブ制度」をなんらかの形で訴えられないのですか?

上杉 憲法89条違反として訴えているけれどすべて敗訴です。日本では行政に対して司法が十分に機能していない側面があります。

山崎 では、記者クラブを解体することはできないのですか?

上杉 民主党の鳩山由紀夫前首相、小沢一郎前幹事長、岡田克也大臣、原口一博大臣、国民新党の亀井静香といった方々が政治家主導で記者会見のオープン化を進めています。たとえば一番早かった岡田大臣は、昨年の9月18日に「記者会見は平等にするべきだ。現在の記者クラブ主導の記者会見は国民の知る権利を侵害している」という内容の通達を出しました。その後、外務省記者会(霞クラブ) はオープンにすると同意したものの、11日間経っても(これがいつものパターンなのですが) 検討中を繰り返すばかり。この検討中というのが通常10年間ぐらい続くのですが、今回は岡田大臣が9月29日の会見冒頭で突然オープン化を宣言した。外に待たせてある記者を海外メディア、フリージャーナリストを含め全員を会見場に入れる、と。それを聞いた記者クラブ側は会見をボイコットしようとした。しかし、岡田大臣は断じてやると押し切ったわけです。

波頭 政権交代によって政治主導が機能したわけですね。

上杉 そうです。非記者クラブメディア側からは拍手喝さいで、FCCJ(日本外国特派員協会) の副理事長が立ち上がって、「今日は質問はありません。私は岡田大臣にすべての特派員・全世界の記者たちが戦ってきたことを決断してくれたことにお礼だけを言いに来ました。ありがとうございました」と言って座るんです。フリーランスの記者も質問のたびに全員立ち上がり、岡田大臣の決断に敬意を表するコメントを次々に表明した。われわれ非大手メディアの人間にとってはある種、感動的な場面でした。しかし、新聞・テレビではこのときの様子は、記者クラブ問題に絡むため、一切報道されていませんが。

 他の省庁への広がりほどうでしたか?

上杉 その後とうとう鳩山前首相の記者会見も1度オープン化されました。3月26日に鳩山前首相は官邸官僚の抵抗を押し切って電撃的にやった。当日私の発言は、「今日こうやって記者会見に入れましたがずいぶん時間がかかりました。総理が半年前の公約を守ってくれたことに敬意を表します。これまで戦後65年間国民の知る権利のために戦ってきたすべてのジャーナリストを代表して御礼申し上げます。質問はありません。以上です! 」というものでした。

茂木 Twitter、Ustreamといったインターネットメディアの台頭は記者クラブの解体に影響を与えていますか?

上杉 大きな影響を与えていると思います。たとえば面白い調査結果があります。新聞・テレビの世論調査では、70 % の人が「小沢幹事長く当時)は辞めるべきだと思う」という結果が出ているのに、インターネット系の調査では7 0 % が「辞める必要はないと思う」とまったく逆の結果が出ています。小沢前幹事長の政治改革への思いや政策の狙いがフェアに伝えられているからだと思います。他にも、原口大臣は記者クラブからの評判は最悪だが、ネットの中の世論では総理にしたい政治家で一番人気です。原口大臣は記者会見も含めてUstreamですべてオープンにしているし、アーカイブもある。何より疑問をTwitterでぶつけると、本人からツイートで直接返ってくる。こういう事例を見ていると、日本の中で記者クラブ系メディアに毒されていない人たちがパワーを持ち始めた証拠ではないかと感じます。