西川 日本の科学技術行政の問題は、トップダウンの予算に対して目的が基本的に作られていないことです。スパコンでも、一番になると言ったら、もうお金を注ぎ込むことしか考えない。
加藤 目的が抽象的ですね。「日本の科学技術の貢献に資する」とか。その目的は否定しようがない。でも、たとえば「はやぶさ」にしたって、1号は小惑星の粒子を持ち帰ったことが成果と言える。じゃあ「はやぶさ」2号を打ち上げる目的は何か。どんな研究成果を目指すのか。そこをはっきりさせる必要がある。
和田 日本の場合、その目的を作るのがおおむね審議会の学者です。ところが審議会の学者は現場と離れている。例えばゆとり教育でも、答申を出した東大の教育学部には1人として元教師がいない。
山崎 人選が重要ですね。事業仕分けでも、誰を呼ぶのか、それが適切であると担保されているかが問われると思いますが、実際どう選ばれるのですか?
加藤 審議会の場合はブランド重視的なところがあるが、こちらははるかに現場経験重視です。ここでよく聞くのが正当性という言葉です。誰がどうやって仕分け人を選んだのか。もちろん大事なことですし、きちんと手続きを踏んでいます。しかし正当性にあまりこだわると物事を変えられない。正当性を最も上手く作り上げるのが官僚です。物事を大きく変えようというときに手続き論を持ち出すのは、日本のインテリの本気度のなさだと思います。
波頭 日本人は「正当性」、好きですよね。合理性で考えるべきところでも、合理性以外の何らかの正当性を探し出して合理性をひっくり返そうとする。
加藤 家康や信長など戦国大名もみんな、いつのまにか先祖は藤原とか源とか言ってる。正当性は大事だけども、その程度のものとも言える。
山崎 事業仕分けの場で出た結果の実効性を強めるために何か方法はありますか?
加藤 内閣が実行力を持つことに尽きます。法的根拠があれば実効性が上がるということはない。行政評価や会計検査など、法的根拠があっても、あまり機能していないわけです。
上杉 去年からずっと事業仕分けを見ていますが、公開することが有効性につながるのでは。
加藤 おっしゃるとおりです。それから、事業仕分けは結果も大事ですがプロセス自体も重要です。毎回事業仕分けが終わるたびに僕は各省にお礼に行きます。彼らに手間をずいぶん掛けさせていますから。で、去年行ったときには「何しに来たんだ」という雰囲気を感じましたが、今年、第2弾の後に行ったらガラッと変わっていた。官僚だってわかる人はわかっている。今では、仕分けの様々な要素を生かしている役所がずいぶんあります。事業仕分けをやる過程で、こういう浸透の仕方があるのだと思います。
あと、日本中で事業仕分けのネット中継を見た人が800万人います。それだけの人が見ると、税金の使い道に関心が出るようになるかもしれない。だから1回の結果ではなく、事業仕分けをやることによって残っていくものの積み重ねが大事です。
山崎 対象としてもっと大物を取り上げる予定は?
加藤 事業仕分けではないところで大きいのは調達です。
和田 オフィス用品の定価って驚くほど高い。イス1脚5万円とか。ところがどこに見積もりを出させても6割引きぐらいの値段を出す。定価がなぜ付いてるのかと言うと、役所が全部定価で買うからです。
加藤 的確に調達するためには品質や相場を知らなければいけない。調達の能力はすごく重要です。でも日本の役所にはそれがない。多くの国では調達の専門家を置いて教育システムもある。日本は何でも競争入札にすればいいことになっている。10年間注文するから半額にしてという話も許されないからかえって高くなることもある。
團 歩道橋を造る場合も、鉄の値段が通常の建築工事の3倍することは、あまり知られていません。
加藤 調達については、いいものを安く仕入れられるかということと別に仕様とか規制がある。たとえば学校の教室は、縦・横・高さが全部決まっていた。埼玉県草加市が天井を30cm低くしたら1棟当たり1億円ほど安くできると試算し文科省にかけあったが、彼等は認めなかった。オチは何かというと、文科省が有識者の声を聞いて、問題がなければ2m70cmでもいいとなった。要するに3mが大事じゃなくて文科省が仕切ることが大事だったんです。
和田 役所の規制はかなり大きなテーマですね。
加藤 次に必ずやりたいとのは、規制仕分けです。みんなの前で、役所の人と、民間のビジネスの人たちが規制について議論すればいい。
茂木 話を聞いていて僕が一番恐ろしいと思ったのは、役人が何に対して忠誠を誓っているかです。ロイヤリティの先が役所や自分の地位になっている。マインドセットの問題が一番のポイントでは。
加藤 たいていの官僚が給料も高くないのに厳しい条件の中で働いているのは、ある種の使命感があるから。しかし、自分の省益や既得権益を守るという使命感で激しく働いている人もいる。一番ベースに国益があるはずなのに、それを忘れて目の前のルールや省益だけが目的になるという構造がある。
西川 医療でも同じです。日本以外のほとんどの国では医療を長いスパンで考える。ところが日本は全部、ポイント、ポイントだけしかやらない。だから結局、インテグレーションできない。
加藤 できないですね。そういう感じが、世界中かもしれないけど、特に日本人にありますね。