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ITベンチャーの現状について

キーノートスピーカー
西川潔(ベンチャーキャピタリスト)
ディスカッション
波頭亮、茂木健一郎、山崎元、上杉隆、和田秀樹

キーノートスピーチ:ITベンチャーの現状について

アントレプレナーシップは私のライフワークのテーマであり、39歳で起業したネットエイジは、インターネットを使ったビジネスのネタを持った起業家と、われわれのファシリティや知見、ノウハウを組み合わせて彼らの事業立ち上げを支援する会社である。15年間これ一本でやってきた私は今、インターネット企業に、第2の波が来ていると感じている。

第2の波について述べる前に、第1のないについて振り返っておこう。ネットエイジの創業が1998年2月で、その直後にいわゆるネットバブルが来た。私たちはその半年ほど前からビットバレーというコミュニティを作り、メーリングリストで日々議論をしてきた。最盛期にはリストに6000人が登録していた。しかし月1回開いていたオフ会がマスコミの目にとまり、やがて「ビットバレー=ディスコで騒いでいる一攫千金を狙った連中」という捉え方をされてしまい、これは意図するところと違うということで幕引きしたのが2000年2月2日。最後のイベントには2000人近くが詰めかけ、ソフトバンクの孫正義さんがダボス会議を途中で抜けてチャータージェットで駆けつけてくれた。オフ会にはそれ以前に、石原慎太郎都知事や当時の速水優日銀総裁も来てくれた。

西川潔氏

1997年に山一証券が倒産し、当時の日本にはどん底というような雰囲気があった。そのなかで希望の芽のように、日本にもこういう若者が出てきた、このムーブメントを実地に見てみよう、といろいろな方に来ていただいた。

しかし第1の波は非常に未熟であり、市場、起業家、投資家がムードに流されバブルを形成していった。その総決算が2006年1月のライブドアショックだ。これまで持ち上げられてきた起業が一気にバッシングを受ける転機となった事件だ。これを機に起業家を目指す人が少なくなった。

それから5年経ち、2010年ぐらいから風向きが変わってきた。第2の波、つまり、アントレプレナー界に再び春が来ている。いろいろな理由が考えられるが、インターネット関係で言えばやはり、Facebookを中心とするソーシャルメディアのムーブメントの影響が大きい。もうすぐ日本でもFacebook上でのモノの売り買いを決済できる仮想通貨ーFacebookクレジットが使えるようになるが、すでに6億人のユーザーがいることを考えると、一種の世界通貨、経済圏が誕生したとも言える。また、インターネット革命と言う言葉があるが、チュニジアやエジプトでは文字通りの革命まで起きた。Facebookにはそれだけの影響力がある。

Googleの登場もインパクトがあったが、Facebookの方が人類史の中での1つの画期的な事件と言えるほどインパクトがある。これからの若い世代は何十年にもわたって、死ぬまでFacebookと付き合って生きていくだろう。特に知的な活動をしていこうと言う人たちは、それを使っている人と使っていない人で有利・不利が出てしまい、結局全員使うと言う時代が、すぐ到来すると思う。

そんなFacebookは来年上場する予定であり、それに付随する事業で上場を予定している企業もある。この影響を受けてベンチャーキャピタリストも投資が活発になってきたし、そういうものをテーマにした起業も数年前に比べて非常に増えている。

起業は今も昔も、実行するには機会コストの高いチャレンジであり、勇気がいる。それでもやってみようと言う人が、ビットバレーの頃は非常に増えたが、1回沈静化して、ここに来てまた増えている。その背景には、幼稚園児の頃からパソコンやケータイに慣れてきたデジタルネイティブの世代が増えてきたこともあるが、もう一つ、今までの日本の人生設計の典型パターンが崩壊したことも挙げられる。いわゆるいい大学を出て、いい会社に入って、定年近くまで頑張って子会社の取締役にでもなると言うパターンが魅力的に見えなくなったし、そうなろうと思ってもなれなくなった。だったら自分の人生、自分で舵取りしようじゃないかと言う、排水の陣的な発想で起業する人が増えてきた。

そういう人たちの学歴は平均的に相当高く、話していても優秀な人が多い。シリコンバレーの友人と一致する意見だが、米国の起業家と比べても能力では見劣りしないどころか、日本人の方が上かもしれない。ただ、最初から萎縮する傾向がある。そこをマインドセットで変えることが必要なのだが、これは根が深く、小学校以降の教育の問題でもある。小中高大学の教育には、起業家的な人材を生み出すようなカリキュラムが何もない。そこにミスマッチがある。

日本人の起業家の悪い点の1つが、ガラパゴス化というか、日本列島の中だけで商売を考えることだが、これについてはある人から、いいアイディアをいただいた。それは、サービスをスタートするときに英語からやると言うことだ。まず英語でそのサービスを出して、半年後ぐらいに日本語版サービスも出す。これまでは逆で、日本語でやって、ちょっと成功したら英語もやってみようかということだったが、最初から英語で始めることで、世界中の人々の目線を気にしながらサービスを提供することになるので、ガラパゴス化しないで済む。この提案を受け、今、育成中の各ベンチャーの経営者、起業家には、英語から始めることを実践させている。

最近私は、日本の起業家の中にも徐々に、国際的な視野を持った人が出てきていると感じている。グリーの田中良和社長やミクシィの笠原健治社長を指して「76世代」と呼んだが、私は今「91世代」に注目している。今年20歳のこの世代には世界レベルで見ても本当にポテンシャルがある人材が多い。我々が出資した学生ベンチャーの1つも代表者は91年生まれ。本当に楽しみで、彼が日本のマーク・ザッカーバーグになるのではと密かに期待している。