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ITベンチャーの現状について

キーノートスピーカー
西川潔(ベンチャーキャピタリスト)
ディスカッション
波頭亮、茂木健一郎、山崎元、上杉隆、和田秀樹

ディスカッション

山崎 かつての日本のインターネットビジネスは、米国の真似にド根性営業を組み合わせたものが多かった印象があります。最近はどうでしょうか。

西川 米国で流行っているビジネスを直輸入することが通用しない時代になりました。Twitterもそうですが、米国のサービスがそのまま日本でも使えるケースが増えています。そう言う意味では時差がなくなってきました。最近は日本のネットベンチャーもオリジナリティを追求しようとしています。米国事情を研究した上で、米国にはなかったテーマを盛り込んでビジネスにしようという人が増えました。

波頭 経営者としてはどうですか。1990年代、私のところにもネットベンチャーを志した若者が多く来ましたが、「一皮むけないと経営は難しいのでは?」という人も少なからずいました。

西川 当時の経営者でも、たとえば藤田晋君はいい経営者になりました。持ち上げられ、バッシングされ、大変な時代を過ごしたけれど、だから今の彼があると思います。結局その人次第ということでしょう。

茂木 ネットベンチャーではどういう人が成功するのでしょうか。マーク・ザッカーバーグやラリー・ペイジなど最近の米国のベンチャー経営者は、1つのことに執着するハッカータイプのようですね。

西川 今のベンチャー経営者の主流は、ビジョナリーというか、自分が「こんなサービスがあったらいいね」と思い、さらに「多くの人もいいねと言ってくれるに違いない」と信じてサービスを作り、ユーザーが増えるのを楽しみにしている人たちです。そこからいつどういう売り上げが出てくるかなんてまったく考えていない。逆に、まだスタートもしてないのに5カ年計画で売り上げがどうのって、エクセルに書いてきている人の計画はたいてい駄目。

山崎 私は学生にキャリアプランの話をする機会があるのですが、たとえば大学1年生に対して、起業するなら何を準備しておくべきか、何をコストとして払うか、何歳までに何を試して、どこであきらめたらいいのか、といったアドバイスはありますか。

西川 1つアイディアがあります。まず大学1年で仲間を募りつつプログラミングを勉強する。大学2年で起業の企画をして、アルバイトである程度のお金を作り、その年にとにかく何かサービスを世に出す。大学3年で1年間休学して、そのサービスをひたすら増大させることに努める。その1年でビジネスが軌道に乗れば起業し、広まらずに終われば就職戦線に戻る。これなら、やる気次第で誰にでも一度はチャンスがあります。もちろん10人中9人はうまくいきませんが、それでも無駄にはならないでしょう。就職の面接時に必ず評価されるからです。

茂木 僕はFacebookのユーザー・エクスペリエンスが駄目で、あまり使っていません。「FacebookはSNSのマイクロソフトで、SNSのアップルがまだきていない」が持論です。米国人は本当にFacebookのルック&フィールが好きなので使っているのですか?それとも我慢して使っているのですか?また、Facebookが他のサービスにとって代わられるような死角は今のところないのでしょうか?

西川 不満を言いつつも他にオルタナティブがないのでしょう。あれが理想とは思っていないけれど、あそこまで大きくなると2番手が出てこない。

和田 それらのサービスがタダであることもポイントです。タダだから検索エンジンでも、Googleが後から来てヤフーから多くの人が乗り換えました。

西川 検索エンジンはスタンドアローンで1人の話ですが、Facebookは友だちリスト丸ごと引っ越さなくてはいけないので乗り換えは難しいです。

和田 引っ越すのは大変だけど、やはりタダの強み、怖さもあるのでは。Facebookもミクシィも両方やっている人は大勢います。今後、同種のサービスが出てきて「みんなでこれをやろうぜ」とFacebookを通して呼び掛けることもあるでしょう。

西川 Facebookとミクシイを併用している人はいますが、両者は根本的な思想が違います。ミクシィは基本的に友だち同士のコミュニティで、Facebookにはそこから新たに見ず知らずの人と友だちになろうという発想があります。また実名主義であることもミクシィとの大きな違いで、Facebookの方がよりオープンと言えます。

ザッカーバーグの伝記を読むと、彼とFacebookの根本思想がうかがえます。インターネットが生まれたのは彼がまだ小さい頃ですが、その頃はインターネットに一種のユートピア論がありました。権威主義や中央集権に対するアンチテーゼとして、自由でどこにも中心がない素晴らしい世界というユートピア論からインターネットは始まったのです。ところが数年を経て、本当か嘘かわからない情報が飛び交い、ポルノが蔓延する世界に堕落しました。だからインターネットを信頼感のある世界に復興させるのだと、彼は言っています。私はその考えに共感します。