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一般意志2.0の構想について

キーノートスピーカー
東浩紀(作家、早稲田大学文化構想学部教授)
ディスカッション
波頭亮、團紀彦、西川伸一、山崎元、上杉隆、和田秀樹

ディスカッション

和田 一般意志という概念から、フロイトよりユングを想起します。彼は集合無意識には逆らえないという考えでナチスに協力しました。

東  集合無意識の問題を20世紀前半の人たちは、処理を誤ったというか、ナチスという形で帰結させてしまいました。だから戦後、世界の思想は理性主義でいくことになったのです。しかし今、ネットワーク社会になり、集合無意識の問題があらためて問われ始めています。

和田 一般意志を可視化するというのは、どういうイメージをお考えですか?

東  たとえば経済政策を作るためには経済データが必要になりますが、それだけでは足りません。政策を通せるか否かを考えると、人の感情のデータも必要です。かつての政治家はそこが直感的にわかったのかもしれませんが、今の民主主義の危機は、政治家に民意が見えていないことが原因です。だから、人々の感情みたいなものをとらえるシステムが必要だと考えています。

山崎 政策が決まる過程や政治家のやり取りは税金で行われているわけだから、すべて国民の所有物だと考えて録音・録画、および保存するのもいいですね。リアルタイムで視聴できることがベストですが、いつでも閲覧できるだけでいろいろ変わってきます。

東  リアルタイムであることは重要だと思います。なぜなら政治家の失言を可能にするからです。失言は結局、そのときの表情や口調などを含め、コンテクストがわからないから問題になることが多い。コンテクストがわからない、中途半端な記録や断片的な情報が、いわゆる失言を生みます。会議を全部リアルタイムにすることは、実は政治家にとってもいいことだと思います。

山崎 コストもそんなにかからないですね。

團  一般意志を受けて、最終的には誰かが決定することになると思うのですが、今の政治においては、その決定者が不在ですね。建築でも、たとえば何かを設計するときに、みんなの意見を列記しただけでは建物は建たない。おいしい食材を並べただけではおいしい料理ができないのと同じです。

東  一般意志は、制約条件として使うべきです。これで物を作ることは難しいのですが、制約条件としては使えます。具体的な政治の意思決定は、当然今と同じような政治形態で行われるべきですが、それが世論調査、マスコミの社説で左右されるようでは困ります。だから一つの制約条件としての一般意志をすくいとる仕組みを作るべきだと考えています。

波頭 現状では政治の実質的制約条件は選挙だけであり、これではあまりに乱暴で不正確だと。今はネット社会のインフラができてきたので、それを使って一般意志をすくい上げて制約条件に利用する、ということですね。

東  ネットの可能性は、ブログ論壇にではなく、「2ちゃんねる」や「ニコニコ動画」にあると思います。ただし、そこに全部任せればうまくいくかというか、絶対にそうではないので、そこにある情報をどう利用するかということを考える必要があります。

上杉 ニコニコ動画を使う政治のシステムというのはすごくいいアイデアだと思います。ただし一方で、そこに現れるコメントに政治家が流されてしまわないか心配です。これによってポピュリズムがもたらされるのではないでしょうか。

東  一般意志2.0システムでは、可視化された視聴者の空気が議論の方向性を枠付けしていきますが、これはポピュリズムではありません。ワイドショーが典型ですが、ポピュリズムには視聴者がいないのです。制作者が頭の中の視聴者と会話し、代弁しているだけです。しかしニコニコ動画のなかには視聴者は常にいます。彼らにポピュリズムをやろうとしたら、相当複雑なことをする必要があるでしょう。

波頭 一般意志をすくい取る仕組みができたら、批判的な意味におけるポピュリズムという概念はなくなるかもしれない。政治家にとっては、一般意志をすくい取ることが仕事になるのだから。そのときに鍛えられるべきは、政治家側ではなく、むしろ主権者側ですね。

森本 一般意志もわかるのですが、国の全体的な物質的利益や利便性を考えれば、時には国民感情をあえて無視するということもなければ、国の発展や国の将来はないのでは。

東  経済や技術の問題と、感情の問題を切り分ける必要があると思います。経済論理としてはそれが正しくても、感情を無視すると大変なことになります。特に3.11以降、日本人は政府を信じられなくなってきていますから。

波頭 政府と国民の間の信頼関係の問題ですね。

西川 今の政治にニコニコ動画などのシステムを組み入れることで、どんな変化が生まれるでしょうか。たとえば国民の空気を読む主体は、今のような政治家なのか、あるいは、新しい政治家なのか。

東  多くの政治家は、単に空気に従っていくだけでしょう。でも本当は、空気を変えることができて、初めて政治は機能していると言えます。一般意志2.0のシステムにおいては、空気を変えることができる人が、本当に素晴らしい政治家といえるでしょう。