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NGOの社会意義と課題

キーノートスピーカー
和田照子(ガールガイド・ガールスカウト世界連盟理事)
ディスカッション
波頭亮、團紀彦、茂木健一郎、山崎元、上杉隆、和田秀樹

キーノートスピーチ:NGOの社会的意義と課題

和田 ガールスカウトは世界中145の国と地域で活動している。会員は約1000万人で、サポートするボランティアを入れるとその数はさらに増える。英国の元軍人、ベーデン-ポウエル卿が健全な英国市民を育てるための少年の活動としてボーイスカウトを始め、次いで、同様に活動をしたいという少女の声を受けて、ガールスカウトが1910年に始まった。日本でも1920年に始まり、会員は4万人に上る。ガールスカウトの運営形態は国によって異なり、学校カリキュラムの一環としている国もあるが、日本を含む多くの地域では、ボランティアの成人が運営・指導に当たっている。

活動のミッションは「少女と若い女性が、自分自身と他の人々の幸福と平和のために、責任ある市民として、自ら考えて行動できる人になれるようにする」教育を行うことで、そこには精神的支柱となる「やくそく」がある。「私は神(仏)に対するつとめを行い、地域と国と世界への責任を果たし、人に役立つことを心がけ、ガールスカウトのおきてを守ります」という約束のもと、国や社会に対する奉仕と人に役立つことを心がけることが重視されている。

和田照子氏

社会貢献・奉仕活動や野外での活動を実際に体験することを通じて学ぶことはガールスカウト教育の特徴である。特にキャンプは、「自己開発」、「人とのまじわり(交流)」、「自然とともに」という三つの要素を一度に体験できる重要な活動だ。最近では、東日本大震災の被災者支援も様々な形で行っている。

なお、少女たちだけでなく大人も学び続けるのがガールスカウトの特徴である。ボランティアとして関わる保護者は必ずしも教育の専門家ではなく、子どもたちへの接し方や野外活動における安全の確保の仕方を学ぶ必要がある。また、連盟の運営に関わる中で、組織運営についても学ぶことになる。私自身も理事になったことをきっかけに、ガバナンスのあり方やプレゼンテーションのスキルなどを学び続けている。

ところで私たちはNGOとしてガールスカウト活動をしているが、政府や学校、企業が提供できない我々独自の付加価値とは何か。まず社会性と公共性を持つ市民を育てる役割がある。そしてもう一つ重要な役割がある。少女と女性のエンパワーメントだ。
日本には能力のある女性が多くいるが、活躍の範囲はまだ狭い。会社などの組織でリーダーシップを発揮するには一定の経験を積む必要があるが、共学の場では女性がリーダーとしての経験を積む機会がまだ少ない。だからガールスカウトには、女性がリーダーシップの経験を積む場を提供する役割もある。

なお、今、世界連盟全体で掲げているキーワードは「girls worldwide say “together we can change our world”」。具体的には、国連のミレニアム開発目標に掲げられている、飢餓や貧困の撲滅、環境の保全、少女に対する暴力の廃絶などに取り組んでいる。こういった活動を通して、少しでも平和な社会、暴力のない社会の達成に貢献することが、NGOとしてガールスカウトが取り組んでいる一つの役割である。

以上を踏まえ、我々が今後NGOとして活動する上で求められることを考えてみる。まず、NGOといえども持続可能でなければならない。東日本大震災を契機に今、社会貢献や奉仕活動に光が当たっているが、一過性の動きで終わらせてはいけない。そのためにはNGO自体も持続可能な仕組みや健全なガバナンスを築く必要があり、解決すべき課題もいくつかある。たとえば人材だ。NGOは基本的にボランティアで運営されていることが多く、常に人手が不足している。ガールスカウトの場合、ボランティアの多くは家庭を預かる主婦や仕事を持つ女性だ。ボランティアに時間を振り分けてもらうためには、限られた時間でも参加できる仕組みを運営する側が提供する必要がある。また、出産や育児など、ライフサイクルや人生のプライオリティの変化を考慮した上で参加しやすい仕組みを考える必要もある。

ボランティアにどうやってコミットし続けていただくかということも重要な課題だ。彼女たちが活動を続けているのは、やりがいがあり、自分が求められ、自分が信じる価値の実現に貢献していると実感できるからだ。ガールスカウトでは、具体的には少女の成長を見ることができたときにそのことを実感するわけだが、例えば、年間の活動報告会を開催し、少女たち自身が報告している。ボランティアや支援者のモチベーション維持のためにもこういった機会は重要である。

コミットメントを称える仕組みも必要だ。何年もリーダーとして活動してくださった方に感謝状を差し上げたり、奉仕してくださったらこまめに感謝の声をかける。そうすれば誰でも気持ちよく働けるものである。

企業でもNGOでも「顧客は誰か」を考えることは重要だ。ガールスカウトの場合、まずは少女たちと、その保護者が顧客となる。保護者がガールスカウトの価値を認識し、活動に必要な費用を負担してくれなければ会員として活動できないからだ。同時に、私を含めガールスカウトに関わるボランティアも顧客と考えてもよいのではないか。ボランティアが満足を得られなければ活動は続かないからだ。

そしてガールスカウトの活動を通じて、社会において責任ある役割を果たせる市民がより多く生み出されることによって、そのメリットを受ける社会全体、つまり究極的には世界全体が顧客であると考えることも出来るのではないだろうか。