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NGOの社会意義と課題

キーノートスピーカー
和田照子(ガールガイド・ガールスカウト世界連盟理事)
ディスカッション
波頭亮、團紀彦、茂木健一郎、山崎元、上杉隆、和田秀樹

ディスカッション

山崎 経済規模としてはガールスカウトはどの程度のものなのですか。

和田 日本連盟の会費が年間4000円で、会員が4万人なので1億6000万円。これで予算の3分の1くらいです。

波頭 それくらいの経済規模で、世の中にこれだけのプレゼンスを達成しているというのは、組織活動として素晴らしいですね。

上杉 ドネーション(寄付)の額とか、政府などから入ってくるお金はどの程度になりますか。

和田 私が会長をしているときに、文部科学省から子どもたちに関する調査(元気サポート事業)を委託される形で調査費用を3年間いただきました。また、外務省からは韓国との、文科省からは英国との間でスカウトやリーダーが交流する費用をいただきました。外部からの寄付は非常に少なく、賛助会員と呼ぶ元会員の方や地元の企業の皆さんからいただくのが数百万円という単位です。

波頭 米国ではどれぐらいの寄付が集まりますか。

和田 かなり集まっていると思います。ガールスカウトクッキーというのがあって、子どもたちがクッキーを何種類も売っています。それをドネーションと考えればものすごい額になります。

上杉 米国だとそれが可能ですが日本では難しいですね。

和田 そうです。販売の売上の割合が大きくなることによって、公益目的以外の事業支出割合が過半を超えると公益認定が外されてしまいます。

團  全世界のガールスカウト人口のうち、人口比率が高い国というのはとこですか。

和田 米国、英国ですね。

團  アラブ圏やインド、中国はどうですか。

和田 アラブ圏は活発になってきていますが、まだ限られた社会層のようです。インドは規律訓練に熱心な国で、実はボーイスカウト・ガールスカウト大国です。中国は香港だけで、まだメインランドには入っていません。

森本 中国の社会はNGOという概念を受け付けないんです。だから中国にはNGOがないのです。

波頭 ガールスカウトは政治的には何らかのポジションはとられていますか。

和田 まったくニュートラルです。宗教的にもニュートラルです。だからこそ、イスラム圏でも、ロシアでも、日本でも活動ができるのです。

森本 ガールスカウトの組織を日本の学校教育システムにユニファイド(統合)することはできないのでしょうか。

和田 私立の学校では、ガールスカウトがクラブ活動のような形で組織されているところもあります。公立校の場合、課外活動には学校の先生が指導者として関わる必要があったり、学校施設を外部の人間に使わせることができないという制約があったり、ハードルになっています。

森本 米国ならボーイスカウトが学校で勧誘したり、軍がハイスクールで募集するのは普通のこととされている。日本の学校組織には、外から入ってくる活動を排除する力学が働きますね。

和田 チラシを配るときは、教育委員会などにあらかじめお伺いを立てた上で、チラシを配らせていただいています。

茂木 二十世紀初頭に英国からもたらされたフォーマットを、いまだに日本で実行し続ける意味はあるのでしょうか。歴史を考えると、受け入れられた背景はわかります。生活に余裕があり、外来文化を採り入れる層が当時飛びついたのでしょう。しかし今ではそういう文化的背景がなくなり、AKB48のほうがおもしろいとされる時代です。

和田 活動内容や教育プログラムはその時代に合わせてどんどん開発されているので、時代や社会のニーズに合わせて進化させています。もう一方の、外来文化に対する違和感は、この活動の価値観が欧米文化発のものである以上、拭いきれないと思います。

波頭 逆に、日本の文化では普遍的な意味での奉仕と社会貢献をミッションにした活動は難しいのかもしれない。そういう組織があまり思い当たりません。

茂木 どうして日本ではできないのでしょうか。

和田(秀樹) 日本人の精神的な土壌には、身内と身内でない者を分け、身内であなれば互助をするが、身内でないものには排他的という性向がある。これが一因かもしれない。

波頭 その性向は、グローバリゼーションの時代には大きなマイナスですね。

森本 ガールスカウトでも町内会の祭りでも、若い人が入ってこない時代です。家でゲームはするけど、外に出て活動することは躊躇する子供が多い。これは問題です。

和田 人と関わることを面倒と考えるようですね。

森本 精神医療の方面から何かできませんか?

和田(秀樹) 難しいですね。社会的なことには無関心だが自分たちの楽しいことはする、というのは、本人はそこで適応しているわけですから。

團  英国のドメスティックなものを消しつつ世界に普遍化させるというガールスカウト活動に強力な思想性を感じました。宗教や政治から距離を持つ、という思想です。このことについては自覚されていますか。

和田 活動場所として、神社の境内や教会の敷地を使わせていただいていることも多く、宗教との距離感は自然と意識しています。

團  キリスト教的な神をスタンダードにしようという意図はないのですね。

和田 それは恐らく、各国に展開する時点で放棄したのではないでしょうか。そうでないと、イスラム圏にも仏教圏にも入っていけませんので。