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ぼくはミドリムシで世界を救うことに決めました

キーノートスピーカー
出雲充(株式会社ユーグレナ代表取締役)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、團紀彦、南場智子、西川伸一、山崎元、上杉隆、森本敏

キーノートスピーチ

出雲 私は多摩ニュータウンの家庭で育った。当時は社長になるとか起業したいなどまったく考えておらず、ただ外国に行ってみたいと思っていた。だから大学に入学してすぐにパスポートを作り、1年生の夏休みにバングラデシュを訪れた。友達がまだ行っていない珍しいところがいいと思って選んだのがこの国だ。

バングラデシュは一部の都市国家を除くと、世界で一番人口密度の高い国であり、同時に最貧国でもある。1億5000万人以上の人が北海道と同じぐらいの面積の中に住み、大半の人が1日1ドルで暮らしている。そしてこの国でいろいろなサービスやインフラを担っているのは、行政ではなくNGOである。バングラデシュのことを勉強するためにはNGOで働くことが一番だと考えた私は、グラミンバンクでインターンをすることにした。2006年にムハマド・ユヌス総裁がノーベル平和賞を受賞するまで、このNGOはほとんどの人が知らなかった。

バングラデシュに渡航する前に、お土産としてカロリーメイトを100個くらいトランクに詰めこんだ。日本土産らしい折り紙などにしなかったのは、同国が世界有数の栄養失調地域だと知っており、遊び道具より食べ物の方が喜ばれると思ったからだ。しかしいざ現地に着いてみると、お腹を空かせた子供はほとんどいなかった。ダールという1食5円程度のカレーを朝昼晩食べており、みんなお腹いっぱいなのだ。カロリーメイトは大不評だった。

しかし子供達と一緒に遊んでいると、ある異変に気付いた。みんな元気が無く、すぐに疲れてしまう。脚や腕も非常に細い。というのもダールにはニンジンやジャガイモといった野菜が入っておらず、肉に至っては1年以上口にしていないという子供がざらにいるからだ。栄養価の高いものを摂取できないから、筋繊維が未発達で、疲れやすい。

「地球上には空腹で困っている人がたくさんいる」というのは私の誤解だった。地球の人口は2050年に92億人になるといわれているが、全員のお腹を満たす炭水化物を生産することは可能なのだ。問題は、そうした炭水化物を作るために農地を占有し、野菜を育てたり牛を放牧する農地が不足することだ。お腹が減ることではなく、栄養失調になることが問題なのだ。

人間が健康な生活を維持するには、植物と動物の両方の栄養素が必要になるが、それらを充分に生産できるだけの農地が不足している。帰国後に、従来の農地の制約に縛られずに生産できる、一番栄養価の高い食べ物は何かを調べ始めた。そして大学3年生の時にミドリムシと出会った。ミドリムシは、人間が生活するために必要な59種類の栄養素を全部持っている藻の一種である。それなのに名前のイメージがよくないせいか、これまで誰もきちんと研究に取り組む人がいなかった。

もちろん、名前以外にもミドリムシにみんなが取り組まない理由はあった。育てることが非常に難しいのだ。ミドリムシが育ち、かつミドリムシを補食するバクテリアや雑菌が入ってこない環境を作るには莫大なお金と手間がかかったのだ。私も大学生の時に1ヶ月研究室に閉じこもり、収穫できたのはスプーン一杯だった。しかし2005年に、私はこの問題を世界で初めて解決した。ミドリムシは育つが、それを捕食する雑菌が死滅する培養液を、屋外の研究室レベルよりも大きな培養槽に入れてミドリムシを育てることに世界で初めて成功したのだ。沖縄県石垣島にこのプールを10基設置し、2006年からミドリムシの出荷を始めた。

私はこのミドリムシを、世界中に10億人いると言われる栄養失調の人たちに、毎日届ける仕事をしようと思っているのだが、実は、ミドリムシは人間の健康だけでなく地球の健康にも役立つ。今、地球が一番取りすぎてメタボになっているのが、温室効果ガスだ。これが大気の循環に大きな影響を与え、台風などの気象災害を引き起こしている。このリスクをコントロールするために化石燃料に代わるバイオ燃料が研究されているのだが、トウモロコシやサツマイモは、ただでさえ不足している農地を使うことになるので供給は容易ではない。だから今研究しているのは、ミドリムシのバイオ燃料としての利用である。ミドリムシなら農地を使わずに培養槽を設置すれば生産可能で、すでに自動車やラジコン飛行機を動かすことに成功している。

私はかれこれ14年、ミドリムシに取り組んできたが、当初は誰もが「うまくいくはずがない」と言っていた。2005年に2人の仲間とスタートした株式会社ユーグレナだが、最初の2年間は1個も売れなかった。営業をかけて話を聞いて貰っても、いつも「ところで、他社の採用実績はありますか?」と聞かれて頓挫した。世界で初めて培養に成功したのに採用実績などあるはずがない。500社に営業に行き、この理由で断られた。そして倒産の2文字が頭をよぎった頃、501回目の営業で「やりましょう」と言ってくれたのが伊藤忠商事だ。私はこのことを一生忘れない。2008年5月から食品企業、化粧品企業、製薬企業に、ミドリムシは売れに売れた。2012年12月に東証マザーズへの上場を果たし、時価総額は700億円になった。

ミドリムシのようなものでも、一生懸命取り組めば世の中の役に立つのだ。今の目標は、2020年の東京オリンピック&パラリンピック開催の年に、ミドリムシバイオジェット燃料を実用化することである。