島田 ミドリムシの培養プールを石垣島に設置されたのは、亜熱帯の方がいいということでしょうか?
出雲 光合成は面積当たりの光の量で決まります。東京は1年間の平均で1日1平方メートルで18メガジュール程度のエネルギー量ですが、石垣島だと25メガジュールくらいになります。どれだけ赤道に近いかは重要です。
團 ミドリムシは海水のなかにもいるのですね。
出雲 海水にも淡水にも、汽水域にもいます。
波頭 いろいろなミドリムシのなかにも「良い子」「悪い子」など、いろいろな個性があるのでしょうね。
出雲 みんなキャラ立ちしています。今、バイオジェット燃料を作ってくれるミドリムシを探していて、才能のありそうな子はいるのですが、まだ大量に燃料を作ってくれるには至っていません。
島田 ミドリムシの品種改良もされているのですか。
出雲 昔はお米も今ほどおいしくなかったと思うのですが、品種改良の成果でササニシキやコシヒカリが生まれました。ミドリムシも、今はわがままなミドリムシを、海で育って、膨大な航空燃料を作ってくれるように、訓練というか、品種改良みたいなことをやっています。
波頭 掛け合わせは可能なのですか。
出雲 掛け合わせではありません。ミドリムシは単細胞真核生物で、雄雌の性別はないのです。よって、掛け合わせではないやり方になります。
團 雌雄がないとのことですが、ミドリムシの寿命はどうなっているのですか。
西川 その質問は難しいよ(笑)
出雲 単細胞真核生物には寿命の概念がありません。たとえば今、目の前で1匹のミドリムシが2匹に分裂したとします。この2匹は遺伝子的にまったく同じミドリムシなので、片方が1歳で片方が0歳ということにはなりません。そして生きられる限り生きて、水が乾くなどすると死んでしまうので、寿命という概念が無いのです。
團 先程、日照量の話が出ましたが、石垣島にも夜や雨の日があります。たとえば鏡などを利用して光量をコントロールし、増殖を促進させることは可能ですか。
出雲 我々は専門ではないのですが、一緒にビジネスをしている会社からは、レンズを使ってどこからか集光してきて24時間ずっと晴れている状態にしましょう、といったアイデアをいただいております。
波頭 光量は強ければ強いほどいいのですか。生物にはだいたいSaturate point(飽和点)があります。
出雲 Saturate pointはあります。他の変数にも依存するので、どれくらいがベストだと言うのは難しいのですが、たとえば29度くらいの温度だと太陽エネルギーでは足りません。一方で41度くらいの高温になると、たんぱく質が壊れないようにするためにエネルギーを使うので、光が来ても、受け取る余裕はありません。
團 ミドリムシの収穫はどうするのですか。
島田 煮詰めるんじゃないですか。
出雲 煮詰めるためには水分を飛ばさなければいけないので、膨大な無駄な蒸発潜熱を発生させてしまうでしょう。収穫は本当に、エネルギー的に一番コストがかかっている部分で大変です。
山崎 特許はどれくらい取られているのですか。
出雲 国内外の出願で50件くらいです。
山崎 でも収穫の部分は、企業秘密をばらすことになるので、していないのですね。
出雲 その通りです。
上杉 ミドリムシや御社にとって最大の脅威は何でしょうか。
出雲 突然変異で、我々の作った培養液にも平気な菌が生まれてしまうことです。今培養槽にはたくさんのミドリムシがいて、それを食べたい菌が入れずにいます。生物的には、ここに入れるように進化を促す環境圧力がかかるはずで、結局いたちごっこになるのです。
上杉 宇宙利用も視野に入れて、放射能への耐性はどうでしょうか。
出雲 非常に強いですよ。私はJAXAの火星農業委員会の委員をしているのですが、火星で人が生活できるようにするためには、ミドリムシを利用する方法がありうると思います。
波頭 先ほど、伊藤忠商事が一番初めにパートナーとして手を挙げたという話がありましたが、実はその前に、ライブドアの堀江貴文さんが協力してくれたのですよね。
出雲 2005年に新年会があって、たまたま正面に堀江さんが座られました。私がミドリムシの話をすると、「ぜひ宇宙食にしたい。今度もう一回説明してほしい」と。一週間ほどして説明に上がったときには、堀江さんの机の上には膨大な資料と論文がありました。そして、これは見込みがあるからと、応援してくれた。
山崎 ライブドア事件の1年ぐらい前ですね。
出雲 当時、六本木ヒルズ森タワーの38階にライブドアがあったのですが、会議室やコピー機、パソコンなどをベンチャー支援として貸してくれた。
南場 やっぱり、さすがです。いい話ですね。