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歴史に学ぶ地震・津波・噴火

キーノートスピーカー
磯田道史(歴史学者)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、團紀彦、南場智子、西川伸一、茂木健一郎、山崎元、上杉隆

ディスカッション

波頭 大変興味深いお話をうかがいました。ひとつお聞きしたいのは、南海・東海では、津波に関してはこの数百年、次第に小さくなっていくトレンドに乗っていますね。しかし、1000年のトレンドで見れば、楽観することはできないということでしょうか。

磯田 むしろこの500年間、南海・東海で15m級の津波を経験していないということは、そろそろ来てもおかしくないと考えたほうが正しいのではないかと思います。少なくとも、もう3m以上の津波は来ないという結論はありえない。なぜなら、ハワイは常に日本のほうへ押し続けられているからです。

島田 1年に何十センチかずつ、太平洋プレートが日本のほうに動いているんですね。

磯田 そうです。ただ、ひとつ申し上げておかなければいけないのは、災害においては常に、前に起きた災害の被害からものを考えるというバイアスがかかってしまうということです。関東大震災では火災で多くの方が亡くなりました。そのため、地震では火災が最も怖いと考えられるようになった。しかし、阪神・淡路大震災では、亡くなった方のほとんどは建物の倒壊による圧死です。だから、建物の耐震強度に関心が移りました。ところが、東日本大震災では津波が大きな被害をもたらしたわけです。

3・11で身内を亡くされた方とお話ししましたが、前年に起きたチリ沖地震が頭にあったかもしれないとおっしゃっていました。このときの津波は3mクラス、東北沿岸に到達した津波は1m程度です。だから、3・11のときも、3mより高い位置に避難すればいいと高をくくっていた可能性があります。

過去の災害に学ぶことが大切といいますが、学んだがゆえに命を危険にさらすこともあるということです。前と同じ形の災害が来るとは限らない。また、これまで来た災害のなかで最も大きなものを想定しても、それより大きなものが来ることもある。だから、前例にとらわれすぎるのは危険だということです。

南場 確かに、おっしゃるとおりですね。直近の災害にあわせて対策を想定しがちですが、次も同じ形の災害に直面するとは限りません。そちらばかりに気をとられていると、想定とは異なるものに襲われたとき、対応できなくなってしまいます。

波頭 地震や津波のお話とともに興味深かったのが、大人の事情で物事が決められていくという現実です。この会合は、まさに大人の事情が幅を利かせる現状を打破することがひとつのミッションですから、磯田先生のご指摘は非常に示唆的でした。

 私も、大人の事情というのはすごく重要なポイントだと思います。ご指摘のように、災害対策は特に利権の縄張り合戦のような面があります。

耐震工事には、免震、制震、耐震などいくつかの工法がありますが、私の知り合いが画期的な補強工事を考案しました。SRFと呼ばれるその工法は、柱にポリエステルの布を巻き付けるというもので、非常にローコストで建物の耐震強度を高めることができます。実証テストでもそれは確認されているのですが、ゼネコンなどに話を持っていってもなかなか採用してもらえません。彼らにしてみれば、壁面に×型の補強材を入れる工事を行うほうが、大きな利益をとることができます。だから、安価で確実な工法には関心を示さないのです。

山崎 災害対策でいえば、仮設住宅にも大人の事情があるようです。1戸建てるのに約500万円ぐらいのコストがかかるそうですが、実はあと100万円加えれば、より本格的な住宅を建てることができる。談合の場で、そのことを口にした建設会社があったらしいのですが、たちまち却下されました。つまり、仮設住宅の建築で1回商売して、これを建て替えればもう1回商売ができるというわけです。

上杉 3・11の原発事故でも大人の事情で重大な決定がなされました。放射性物質の拡散に関して、政府は東北新幹線と東北自動車道を越えることはないと発表しました。内部では80km圏に拡大して避難や屋内退避の指示を出すことも検討されましたが、そうなると中通りまで危険区域になってしまう。だから、大人の事情で30km圏に戻したんです。

そういう大人の事情の欺瞞を正すのは、他の国ではメディアです。どんなに都合が悪かろうが、叩かれようが事実をありのままに言わなければいけないのに、この国では本当のことを言った人間をメディアが叩いて潰そうとするんです。

島田 そう、この国では、メディアが正論を叩き潰そうとする。