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人工知能は人間を超えるか-ディープラーニングの先にあるもの-

キーノートスピーカー
松尾豊(東京大学大学院工学系研究科特任准教授)
ディスカッション
波頭亮、磯田道史、島田雅彦、團紀彦、山崎元、上杉隆

ディスカッション

上杉 たしかに中国のAI技術の向上には目を見張るものがあります。中国で開催される国際会議の取材に行くと、入場時に顔認証が必須だったりする。では、日本は中国と協力してAI開発に取り組むべきか、それとも日本独自で進めていくか、どちらがよいのでしょうか。

松尾 日本独自の路線をめざすべきでしょう。中国でAIが急速に導入されているといっても、現段階では「ユーザー(使用者)国家」の域を脱していません。「ユーザー国家」はいずれ「メーカー(製造者)国家」にノウハウや利益をもっていかれてしまう。日本は「メーカー国家」側の立場をつねにキープすべきです。

山崎 私は囲碁や将棋が趣味で、仕事では金融に携わっているため、駆け引きに興味があります。金融の世界では、「お金を貸してくれ」といってきた人に貸してはいけない。これがセオリーです。ほかに借り手が見つからなかったか、あるいは計画性が欠けていて事業で失敗したのかもしれない。いずれにせよ、人にお金を貸すかどうかを判断する際は、文脈を読んだ上での駆け引きが必要になります。文脈を読むことに関して、人工知能に何かブレークスルー(飛躍的進歩)はありますか。

松尾 顔の表情だけで判別するのであれば、人間の判断を超えるレベルにまでいけると思います。ただ先述したように、ディープラーニングによって可能になったことは、動物一般に当てはまる「認識」の部分までです。その先にある「言葉」の判別までは至っていません。

言葉は、任意の状況を想起させることができます。ある人が「リンゴ」という言葉を発すると、誰もがリンゴのイメージを思い浮かべることができる。これは生物学的に異常なことです。実際はリンゴがないのに、食べたと思って満足してしまったら生きていけなくなります。言葉を理解して文脈を読む力は、人間の特長といえるでしょう。

 食に関する話が出ましたが、人間は、期待を裏切る予測不能な味に出合うとそれも美味しさの評価に加えることもあります。

建築の世界でいうと、中国の現代建築のように五人中四人を満足させるものではあるけども、ドマンナカに入りすぎていて、センスを感じない。千人のうち一人が面白く感じるようなメッセージを送るほうが文化的なエレガンスを感じることもある。

松尾 「食のプラットフォーム」は、高いレベルでの味の話ではないと考えています。諸外国の人びとがいま食べている料理よりも美味しいものを提供する、いわば底上げのプラットフォームです。本当に質の高い食を体験したければ、日本に来てもらいたいものです(笑)。

島田 犬の嗅覚のように、人間よりも動物のほうが局所的に優れた部分がありますよね。AIがそのような動物の特性から学ぶ研究はないのですか。

松尾 私の知る限り、いまのところ特筆した研究はありません。将来的には研究すべきだと思います。

波頭 人間は犬と比べて臭いに鈍感だからこそ、判断力が発達してきた側面もありますね。

松尾 それはあります。人類学者の長谷川眞理子教授によると、人間は眼の能力を優先して、わざと嗅覚を落としたようです。

AIに政治判断を委ねられるか

上杉 話は変わりますが、AIの技術がこれからも進歩していくと、ゆくゆくはAIによって政治や戦争の判断をするところまでたどり着くのでしょうか。

松尾 AIの技術が進歩しても、政治や人事闘争は今後もなくならないと思います。企業内でも社内政治や派閥闘争がありますが、人間はある意味、そうした不合理な営みをしているほうが自然なのではないでしょうか。

波頭 政治的なことが楽しいんでしょうね。

松尾 そう思います。宇宙から異星人が攻めてくるような究極の状況にならない限り、人間が政治を放棄してAIに判断を委ねるようなことはしないでしょう。

磯田 言われ尽くされているかもしれませんが、AIは目的とルールが決まったなかで最強の力を発揮しますね。棋士の羽生善治さんは、「AIに接待将棋はできない」と語っています。人間は目的そのものを外すことができる。将棋盤をひっくり返してスパゲッティを盛る、というような奇抜なことも人間は考えます。そういった「崩し」はAIでも可能なのでしょうか。

松尾 目的が決まっているときの「崩し」はAIでも可能ですが、人間のような目的関数が複雑な「崩し」はできませんね。

島田 人間は、苦し紛れにちゃぶ台返しのような常識外れなことをやろうとします。それが不合理なことでも、たまたま結果がよかったというケースもありますね。