昔は「供給が需要を創造する」といわれていました。しかしいまは、「需要が供給を創造する」時代です。生産性というと、発明や発見、特許などがイメージされがちですが、物的生産能力よりも新たな需要を考えつくことのほうが重要です。物事の新しい活用の仕方や販路を見出すことが、現代のイノベーション(技術革新)です。
人の「移動」は、そうしたイノベーションの起点となります。経営学の分野では、スキル多様性がある人が「弱いつながり」をもつと「アイデア」が生まれる、と考えられています。人の「移動」が増えると、「出会い」が起こり、弱いつながりができてアイデアが生まれやすくなる。
ただし、アイデアが生まれただけではイノベーションとはいえません。現実化して利益化してこそ価値があります。実生活に落とし込むためには「弱いつながり」よりも、「強いチーム」が求められます。お互いに深いつながりになり、「親しむ」ということです。これからの日本の経済成長の核になるのは、「動く成長」「出会う成長」「親しむ成長」の三つです。
では、この三つを同居させられる場所はどこかというと、私は﹁地域﹂だと考えています。全国の中核都市が地域の強みを利用して、人を呼び込む。一つは、周辺部の人口の少ない地域から人を集積させること。そうすると、地域全体の効率が上がります。もう一つは、地方で生まれ育った人が都心で働いたのちに再び出身地に戻って働く「Uターン」や、出身地とは別の地方に移り住む(とりわけ都市部から田舎に)「Iターン」によって、東京から人を集めること。この二つによって人の﹁移動﹂が起こり、新たな「出会い」が生まれて、経済成長が始まります。
地方の財界は東京と比べて狭い範囲で活動しており、ほとんどの人たちが知り合いです。お互いに誰がどんな強みをもっているかを把握していて、独自の人的ネットワークが広がっています。新しいアイデアが生まれれば、現実化するための強いチームづくりがしやすい面があります。「動く」「出会う」「親しむ」の三つを同居させられる地方には大きな強みがあるのです。
移動を起点とした経済成長の流れを生み出すには、地方の中核都市が人を惹きつけるまちづくりをしていかなければなりません。ところが地方の中核都市は現在、魅力的なまちづくりができていない。それは、地方が東京の模倣に終始していることが原因の一つでしょう。
まちづくりの考え方は主に二つあります。一つは、フランスで活躍した建築家ル・コルビュジエが提唱した「輝く都市」の街並みです。有り体にいえば、機能的でおしゃれなまちづくりです。
二つ目は、米国のエッセイストであるジェイン・ジェイコブスが示したまちづくり。街路の幅が狭く、曲がっていて、一つひとつのブロックの長さが短い。古い建物と新しい建物が混在している。コルビュジエとは逆のゴチャゴチャとした街です。
私は、地方の中核都市がコルビュジエ的なきれいなまちづくりをめざすことによって、むしろ貧しくなっているのではないかと危惧しています。駅前を再開発して、東京からチェーン店を呼び込む。すると地域が活性化しているようにみえますが、実際はチェーン店の利益が東京の本社に吸い上げられています。お金が東京に流れているだけで、地域経済の活性化にはほとんど役に立っていません。
コルビュジエ的な街をつくることは劣化版の東京をつくるようなもので、地方の魅力を薄めてしまう。地方の中核都市は、ジェイコブス型の街をつくって魅力を高め、東京から人を惹きつけるべきです。
東京都内は二〇二〇年のオリンピックに向けて、ジェイコブス的な雑多な街並みが減っている。地方がジェイコブス型の街をつくれば、そこに魅力を感じる人が東京から移住してくる可能性があります。地方の中核都市が魅力的なまちづくりをすることが人の移動を促し、将来の日本経済を成長させるために重要だと私は考えています。