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「移動」が生み出すこれからの経済成長

キーノートスピーカー
飯田泰之(明治大学政治経済学部准教授)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、團紀彦、西川伸一、山崎元、上杉隆

ディスカッション:人はゴチャゴチャした街が好き

島田 地方に行ってジェイコブス型の街を探しても、ほとんどないですよね。むしろ地方都市より東京でジェイコブス型の街並みが広がっていることも少なくない。

飯田 そうですね。JR中央線沿線や都内の東側にも、ジェイコブス型の街は多い。

 私はいま青山学院大学で都市学を教えているのですが、「コルビュジエとジェイコブスと、もう一つ黒川紀章の『共生』という三つの考え方を勉強すれば、ほかの本は読まなくていい」と学生に話しています。

コルビュジエの「輝ける都市」の問題点は、街路を味方につけなかったことではないかと思います。新宿の副都心は典型的な「輝ける都市」ですが、タワー同士の距離が長すぎて、街路を歩きたいと思わない。

島田 台湾に行くと「輝ける都市」もあるなか、ビルとビルのあいだは屋台で埋め尽くされていて、同時進行的ですよね。

飯田 都内でもたとえば六本木は、ミッドタウンやヒルズもあれば、その前にはまさに猥雑な街が広がっている。「輝ける都市」とゴチャゴチャしたものが併存している状態です。

地方都市は、再開発によって駅前にビジネスの拠点を集中させると、元の商店街が死に絶えてしまう。きれいに整備された駅前のビル、アーケード街の新築物件は家

賃が高くて、チェーン店しか入れない。むしろアーケード近辺に新しく出した小さな店のほうが流行っているとのこと。決して洗練された雰囲気とはいえない半面、人が歩きたくなる街並みが実現できているからです。

島田 人はゴチャゴチャしたところが好きで、迷路や洞窟などに隠れたがる習性もありますよね(笑)。

山崎 私の出身の札幌では、昔はすすきのが宝だったんですけど、いまは札幌駅の近くに都市機能の中心をもっていこうとしている。まちづくりとしては失敗しつつあるのかもしれません。

上杉 東京で外国人が集まるところは、築地や新宿歌舞伎町など雑多な場所が多いですよね。私が住んでいる築地では、四角い形できれいな建物ができてから、外国人の観光客が減ったように感じます。

 街と市場はよく似ています。東京のような巨大都市になると、第二市場として生産加工場は必要でしょうが、築地のように色とりどりの魚が並んでいる市場と両方があればよい。豊洲はシステマチックな生産加工場だと堂々といえばいいのに、千客万来のようなことをいうからおかしくなります。私はやっぱりジェイコブス的な街に住みたいですね。

東京は高齢化のピークに備えよ

波頭 私は一九九〇年代に地方活性化の仕事をしていましたが、利害調整が難しくてあまりうまくいきませんでした。東京は大企業が土地を所有しているオンリークライアントですから、その会社さえ説得できれば事が進む。しかも、経済合理性と社会的意義の二つの軸で説明が可能でした。ところが地方では多様な利害や個人の好き嫌いが絡んでいて、プロジェクトが遅々として進みませんでした。

地方の若い人たちが新しい事業を始めたいと思っても、意思決定権をもっているのは六十代以上の経営者たちです。彼らは地域の将来のことよりも街のなかでの自分のメンツやプレゼンスのほうを重視する傾向があって、街の将来性に議論が収斂しないケースが少なくありません。

飯田 最近は少しだけ状況が変わってきているように感じます。団塊ジュニア(一九七一~七四年までに生まれた世代)が地域の舵取りを主導する自治体が出てきました。その流れが急速に起こった地域が、東日本大震災の被災地です。高齢者は被災によって地域復興に悲観的になる一方、若者が復興の主体になりました。

波頭 それはいいですね。私が仕事をしたときも、JC(青年会議所)の若い人たちがサポートしてくれました。三十代、四十代にさらに意思決定をシフトしていくことが重要です。

地方ではまちづくりの側面だけでなく、人の問題もあります。ハブ(中心)になる人が東京から地方へ移住するだけでも、地方にかなり活気が生まれるでしょう。「あの店に行くと、いつもあの有名人が飲んでいる」という噂が流れれば、その出会いから新しい何かが生まれかもしれない。

人口一〇万人の都市で、一人が一カ月五〇円を出せば、年間で六〇〇〇万円の財源になります。移住希望者には三〇〇〇万円を報酬として用意し、残りの三〇〇〇万円を活動費として渡せば、著名人が移住してくれるのではないかと思います。ただ、人にお金を払う提案を地方議会はなかなか通してくれない。建物など﹁箱物﹂に投資する発想に凝り固まっている、といわざるをえません。

飯田 おっしゃるように、地域にスターのような存在を意図的につくっていくべきです。

西川 飯田さんが魅力ある都市と思われる地域は、首長によって何か違いはありますか?

たとえば、東京の役所から下りてきた人と、地方のなかから出てきた人で差は出ますか。

飯田 中央官庁から天下ってきた人はお上とのパイプをもっているので、地方に行くと神通力があるかのように祭り上げられたりしますね。

上杉 愛媛県の中村時広知事は衆議院議員を務めたこともあって、加計学園をめぐる柳瀬唯夫氏の面会記録問題において、県の主張を堂々と発言していましたね。中央のことがわからない人は「これをいったらまずいかな」と怖がってしまうけど、ボタンの押し場所をわかっている人は強い。

飯田 地方の首長は、国会議員よりずっと力がありますからね。

西川 飯田さんは、高齢化による地方経済へのインパクトをどう捉えていますか?

飯田 じつは高齢化率が今後最も悪化するのは、地方ではなく東京です。地方の県庁所在地は、車移動圏内に大病院があったりします。他方、介護と医療の供給余力が弱い東京で高齢化が進むと、高まる需要に耐えきれなくなります。地方から東京に出てきた人はのちに戻ることもできますが、生まれ故郷に足場を残していない高齢者も増えています。

波頭 東京は生産都市なんですよね。そのなかで非生産人口が増えると、うまく機能しなくなります。

飯田 外縁部も含めた東京の都市圏は、生産要素である労働者をいかに効率よく中心部に運ぶかという街のつくりになっています。川越(埼玉県)のような古い街並みが残っているところは別ですが、東京郊外に住んでいて自分の街にアイデンティティを感じている人はあまりいないのではないでしょうか。東京近郊にも地場の産業や地域の需要を満たす医療拠点のようなものをつくっていくことが必要です。