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複雑系の科学よ、再び

キーノートスピーカー
茂木健一郎(脳科学者)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、神保哲生、西川伸一、茂木健一郎、山崎元

そういうなかで、我々は言論の自由が大事だと言っています。それについても、本当に⺠主的な自由が人間にとって一番良いシナリオなのかは見えなくなってきています。今やすべてがそういう霧のかかった状況だと強く感じます。

最近、とても面白いことに気づきました。アメリカに「4chan」という掲示板サイトがあります。もともとあった日本の「2 ちゃんねる」から「ふたば☆ちゃんねる」ができて、これにインスパイアされてアメリカで「4chan」が出来ました。

「4chan」はインターネットのmeme factoryと言われていて、実際いろいろなイメージを広く生み出しています。この「4chan」は、完全な匿名で運営されているのが特徴です。

実は、そのアノニマス(匿名性)の集団である「4chan」が、サイエントロジーという宗教団体に対して抗議行動を仕掛けるという動きのもとになっています。私は、この匿名性というものこそが、社会に変化をもたらす非常に重要な鍵なんだろうと感じています。

中国政府のやり方は、すべての国⺠のすべての発信を抑えるという路線ですが、日本には匿名での発信が多くあり、例えばツイッターが匿名アカウントのけしからん書き込みによって荒れたりしています。このように、確かに匿名性には危険性が付きまといます。

しかし、匿名だからこそ前に進む話もあります。有名な話では、ブルバキというフランスの数学者の匿名集団が、集合論を中心に体系を作ったケースがあります。共同作業なのですが、誰がどの部分を書いたか明らかにしない形です。

ほかの例でいうと、イギリスの作家のジェーン・オースティンは、初期の頃「A Lady」という匿名の形で小説『分別と多感』を発表しています。

匿名性は現在の様々な状況に対する解毒剤でもあるのでしょう。ビットコインの創設者と言われるSatoshi Nakamoto は非常に大きな謎になっていますが、そのSatoshi Nakamoto がビットコインの5%を今も所有しています。ビットコインは総発行額が決まっているため、将来的にも彼の持分は変わりません。

しかし、Satoshi Nakamoto は生きているのかどうか、存在するのかどうかもわからない。完璧な匿名性です。この匿名性こそ、現代の解けない問題を解く鍵なのかもしれません。

Satoshi Nakamoto の謎のように、陰謀論ではなく、実際に謎として存在している面白い事象が世の中には多くあります。しかし、これらの謎や今後の世の中の流れ(シナリオ)を理解できている人が、果たしているでしょうか?

私は正直言って分かりません。誰も分かっていないのではないでしょうか。未来ビジネスに大胆に投資しているイーロン・マスク氏ですら分かってはいないのではないでしょうか。

マスク氏はニューラリンク社という会社で、コンピューターの素子(電極)を人間の脳に埋め込む事業を進めています。人の脳のメモリを拡張できる、人間の能力を向上できる。そうマスク氏は言っていますが、私はこの事業には懐疑的です。

そのマスク氏が先日、ビットコインとドージコインに投資をして、両暗号資産の価格が大きく上がっています。暗号資産は先ほど言ったように、先々のことを考えると、投資するのは間違いだと私は見ています。陰謀論ではないのですが、ニューラリンク社のこの事業も、暗号資産同様、おかしな大ネタ(謎)の一つです。

このように、どう理解したらいいかわからないエニグマ(謎)という事象がたくさんあります。その意味では、我々の知性が今、試されているのですが、これらの謎に答えられる知性がいません。

ローマ神話のミネルヴァの梟のような存在が、いま求められています。