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日本の安全保障・外交・防衛―主要課題と政策―

キーノートスピーカー
森本敏(拓殖大学海外事情研究所所長、同大学院教授)
ディスカッション
波頭亮、西川伸一、茂木健一郎、山崎元、上杉隆、和田秀樹

ディスカッション

和田 ロシアのアジア地域の資源開発においては、中国と韓国と日本のどこがお金を出すかでロシアは外交態度を変えてくると思います。中国や韓国は話に乗りそうだ、日本は乗らない、ということになれば、ロシアが外交相手として日本を見切るという可能性はないですか。

森本 そうなるかもしれません。しかし、資源開発には、外資も要るけど、技術も要る。ロシアは外資と技術が欲しいのですが、中国に頼ると外資と一緒に人間が付いてくる。ロシアの人口1億5000万人のうち、ウラル山脈の東側である極東部には650万人しかいない。そこに13億人の1%でも入ってきたら脅威です。どんどん発展する中国を、ロシアは警戒している。ロシアの中国に対する武器売却が2009年から落ちているデータを見てもこのことはわかりますが、中露の関係は常に相互の不信感がある。その点日本は、外資を導入しても技術を持ってきてくれるだけで人間は来ない。しかも信頼できるし、約束も守る。だからロシアにとって日本は、安心できる協力相手なんです。

和田 仮にロシアが北方領土を日本に返してくれたとしても、メンタリティから考えて、日本人は本当に北方領土に行くのでしょうか。

森本 北方領土には元島民の住民票が全部残っているので、おそらく行くと思います。自分の土地があるわけですから。そして銀行から資金を借りて、たとえばホテルを造るという話も出るのではないでしょうか。多くの自然が残っていて海産資源も豊かです。開発されればきれいな島になり、あの島々で夏を過ごすというスタイルも生まれるのでは。

上杉 今で言うと知床半島みたいな感じになるかもしれませんね。

森本 一方で、ロシアの極東部の人が何を嫌がってるかと言うと、北方領土から追い出されることを嫌がっています。だからそれをうまくマネージするために、たとえばこの先100年とか150年の間、これらの島々を共同管理しましょうという考えがあるのです。今いる人は別に追い出しませんという約束をして、お互いに共同出資して作った企業に共に雇用される。彼らの生活も保障しますというのが、鈴木宗男氏のアイディアだったわけです。

ただしこれは四島一括返還論者に言わせると、何を言ってるんだという話です。というのも、1956年の共同声明のなかで、日露平和条約を締結し、その後に歯舞・色丹を返すと書いてある。だから平和条約を結んで二島が返ってきたら、もうそれで終わりだということです。ちなみに、実は北方四島といっても歯舞・色丹は全体面積の7パーセントしかない。だから四島のうちの二島が返ってきたらあとの半分は、その後に返ってくるというわけではないんです。

波頭 国防マターとして今最も大事なのが東アジア沿岸地域。そこにかかわってくるのが対ロシア、対中国外交ですが、ロシアに対しては外務省のロシアチームが、中国に対しては中国チームが、という対応で決してベストな戦略にはならない。たとえば東シナ海戦略とか、東アジア沿岸戦略とか、プロジェクトを作って包括的にやる予定はないのですか。

森本 おっしゃるとおり日本の外交には総合戦略が必要です。そのために外務省に総合外交政策局を作ったのですが、実情は、総合外交政策局とはいえ中国外交・ロシア外交はかなりアンタッチャブルなところです。なぜなら人事権の問題があるからです。

外務省職員にとって、チャイナサービスなら中国大使になるのが、ロシアサービスならロシア大使になるのが職業人生の究極の目標です。その人事権はそれぞれの主管の課長、つまり中国課長がチャイナサービス、ロシア課長がロシアサービスの職員の人事権に大きな影響力を持っているわけです。そういう状況がある以上、総合外交政策局にチャイナサービスやロシアサービスから来ている者は、それぞれの課の意に沿わない政策上の問題には手を出せない。

波頭 外務省全体の人事権自体を総合政策が持つような改組改変ができればいいわけですか。

森本 そうだと思います。簡単ではないと思いますけど。