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日本防衛論

キーノートスピーカー
中野剛志(評論家)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、團紀彦、西川伸一、茂木健一郎、山崎元、上杉隆

ディスカッション

山崎 マーケットも含め世界の営みをゲームとして捉えると、それを支えるインフラや仕組みが必要です。覇権国家というその面倒を見る人がいなくなり、共同でその仕組みを作ろうとすると、ゲームは非常に複雑になり、また適切な分担の均衡にたどり着くことも非常に難しくなります。

中野 そうです。G7よりG20のほうが難しく、それもできないから「Gゼロ」になってしまいました。

波頭 冗談ですが、今ここでエイリアンでも攻めて来れば地球として一致団結できるかもしれません。しかし、このままでは本当に、まずい方へ行きそうです。

中野 行くと思います。覇権国家が存在しないのにグローバルにつながり、グローバルにつながった経済がおかしくなったのは人類史上初めてですが、覇権国家がないのであればグローバル化してはいけなかったのです。今、行き過ぎたグローバル化について多くの人が警鐘を鳴らしています。ハーバード大学のダニー・ロドリックは自由貿易について、工業製品はさておき農業はセンシティブであるべきで、医療や知的財産権は他国にそろえるなんて馬鹿げている、金融の自由化も間違いだという意見です。また、自由貿易を進めるほど政府は大きくならざるを得ない点も重要です。グローバル化にはメリットがある一方でデメリットもあるので、それを相殺するために政府が大きくなって社会保障を手厚くしたり、ある産業に補助金を出すということが必要になります。ところが昨今はグローバル化や自由化を進めると同時に政府を小さくする方向で進んでいます。

波頭 その点については、生産性の向上やグローバル化による効率化によって得たゲイン分の分配が間違っていたと思います。政府は再分配機能をもっと強くするべきです。

中野 おっしゃるとおりです。グローバル化すると格差が拡大することはポール・クルーグマンも認めているところです。たとえばオランダやベルギーのような欧州の小国は、貿易依存度が高いので自由化を進めざるを得ないのですが、だから大きな政府=福祉国家を標榜しています。

團 先ほどの第三次産業革命の話についてですが、建築家の立場からもまったく同感です。第二次産業革命前後に鉄筋コンクリート構造ができたのですが、過去300年ぐらいの建築の一番大きな変革は、この鉄筋コンクリート構造の登場で、世界全体の都市が変わりました。それに比べると第三次産業革命が建築にもたらした変革はものすごく小さい。新しい意匠は出てきていますが、本質的には何も変わらず、都市構造にほとんど影響を及ぼしていません。

中野 ロバート・ゴードンが「馬から鉄道、自動車、飛行機へと、交通はスピードアップしてきたと思われているが、飛行機のスピードはボーイング707以来速くなってない」と書いていますが、それと同じことですね。

西川 もっと先の、たとえば「飛行機のない世界をつくる」といった問題を考える必要がありそうですね。

中野 私はこの問題については悲観的に考えています。

毎年成長してイノベーションで何でも解決ができた時代が終わった後、世界はどうなるのか。團先生がおっしゃったように、意匠的なものは相変わらず発達し続け、お金持ちはそれを楽しむ一方、笹子のトンネルの事故に見られるような、非常にマテリアルに基本的な、これまで当たり前だったインフラが直せなくなる。あるいは、スマートフォンのアプリがどんどん増えて、皆がそれを楽しめる一方、食糧とエネルギーが不足する。知識的なもの、意匠的なものばかりが発達する一方、これまで当たり前だと思っていたマテリアルな、基礎的なものが不足するいびつな世の中になるのではないでしょうか。そして金持ちは意匠を楽しみながら、食糧やエネルギーを買うことができますが、それらを貧しい人に再配分する仕組みは失われていいます。お金持ちと貧しい人が分裂するという意味で、ディセントラライゼーション(分裂)は自然に起こると思います。

西川 ディセントラライゼーションが進むのであれば、そのときにはアフリカの人も飢えないようにする必要があるのですが、それが今の社会であり得るかどうかですね。

島田 一度、前近代に戻るのではないでしょうか。たとえば米国が覇権国家でなくなり、中東に介入できなくなれば、たとえばイランのような国がイスラム社会である種のイニシアティブを取り、そこにイスラム原理主義的な社会が生まれるかもしれない。これはある種の地域のアイデンティティの確立のために必要不可欠な退行であって、そこからもう一度社会的なコンセンサスを作っていくのでは。

山崎 今後、国というのは強まるのでしょうか、弱まるのでしょうか。そこが重要だと思います。

中野 決定的に重要ですね。「グローバル・トレンド2030」には、実はその観点が抜けていると思いました。米国は中国と手を組むと言っていますが、中国が内側から壊れていく可能性もある。そうなると事態はもっと厄介になります。

波頭 国家も建築も、構造やメカニズムのあり方を規定する主要ファクターは人間の身体性だと思います。身体性が規定するスケールで国家が決まったり、建物の構造が決まったりするものだと思います。たとえば、北欧の直接民主主義的な社会運営が成立しているように、その身体性の重要さを今まで、政治にしても国家の体制にしても、軽視してきたきらいがあるように感じます。

中野 これまで、狩猟社会が農業社会になり、工業社会、脱工業社会、情報社会、知識社会と、どんどん上に上がってきたのですが、今後は上の方向は意匠的なものだけ発達し、後はもう一度、近代初期のような、人が飢えるとか石炭をめぐって争うとか、そういうマテリアルなものの争いの世界に戻るかもしれません。今、食糧もエネルギーも不足し始めていますが、それをブレークスルーするものがありません。そして食糧、エネルギー、水は地理的に分散しているものです。グローバル化社会は、地理や国境を越えて動く社会のはずですが、私たちはもう1回、国境、地理、地面、ソリッドなもの、ハードなもの、マテリアルなものに縛られていくのではないかと思われます。