Report 活動報告詳細

HOME>活動報告一覧>デザインと科学の未来

デザインと科学の未来

キーノートスピーカー
伊藤穰一(MITメディアラボ所長)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、團紀彦、南場智子、西川伸一、山崎元、上杉隆

キーノートスピーチ:科学には「テイスト」も大事

伊藤 最近は、サイエンスの研究スピードと、それが社会にインパクトするスピードが非常に速くなっている。

まず、ネリ・オックスマン教授による「創造性のクレブスサイクル」を見ていただきたい。チャートの上半分がパーセプション(認知)で、下半分がプロダクション(ものをつくる)。右側がネイチャー(自然)で、左がカルチャー(文化、社会)になっている。

伊藤穰一氏
©Neri Oxman

右上から順に説明すると、サイエンスは、自然を認知してナレッジに変える。エンジニアリングは、自然から出てきたナレッジをユーティリティ(役に立つもの)に変える。デザインはユーティリティを社会の行動や社会に影響を与えるものに変える。アートは、社会の行動を情報に変える。基本的にはこういう循環をしている。

アートとサイエンスの間が哲学であり、エンジニアリングとデザインの間がエコノミーだ。

最近は、このサイクルの循環スピードがとても速くなっている。また、環境、バイオ、人工知能などの問題が加わったことでより複雑化している。

昔の製品は、ユーザーの使い方を考えて、仕様を決めればデザインができた。いまは、一生懸命にデザインしても、状況が複雑だから結果が読めなくなっている。

一九五〇年代に、ミサイル制御の方法として、動かしながら軌道修正していく「サイバネティクス」というものが出てきた。弾丸の場合は、まっすぐに飛ぶだけだが、ミサイルはターゲットを捉えて、「右に行き過ぎた」、「左に行き過ぎた」と判断して、フィードバックすることによって軌道修正する。エアコンも、車のスピードコントロールも一つの目的に向かって軌道修正をする仕組みだ。

しかし、目的そのものが決まっていない分野もあるし、コントロールしていくのがとても難しい分野もある。たとえば、子育てだ。親は子供をコントロールしているように思っているが、子供は親の思った通りにはならない。それでも、いい親がいい教育をすれば、いい子が育つ確率は高まるので、やる意義はある。

子育ては、ルール通りにやれるわけではない。「テイスト」と言っていいのか、「直観」と言っていいのか、そういうものが大事だ。「いま、この子は怒っているから、ここで言い返したらどうなるか」ということを親は勘で判断する。そこには理屈はない。

いまは、どんな分野でも「テイスト」の要素が大事になっている。