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デザインと科学の未来

キーノートスピーカー
伊藤穰一(MITメディアラボ所長)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、團紀彦、南場智子、西川伸一、山崎元、上杉隆

ディスカッション:微生物が人間をコントロールしている?

波頭 いまちょうど経営学の総括の本を書いているんですけど、今日の伊藤さんの話と同じテーマを扱っています。これまでの経営というのはシステマティックな捉え方をしていました。だけど、それではうまく行かなくなって、最近は、ヒューリスティックな考え方が主流になっている。このチャートで言うと、アートの部分が重要になっている。だから、今日の話は経営の分野にもドンピシャの話でした。

 今日の話は面白かったですね。建築の分野は、エンジニアリングも、デザインも、アートも、サイエンスも全部考えないといけない。

昔は「機能」というものが神のごとくあって、「フォーム・フォローズ・ファンクション(形態は機能に従う)」だったけど、途中から「フォーム・イヴォークス・ファンクション(形態は機能を喚起する)」というのも出てきた。たとえば、木の切り株は座るためにつくられたものじゃないですよね。だけど、座るという人間の行為を喚起することもある。だから、機能というのは相対的なものでもあるという認識が広まって、いまは固定的な意味での「機能」という言葉がほとんど使われなくなってきました。

伊藤 ある人は、アートとサイエンスっていうのは、役に立っちゃいけないって言うんですよ(笑)。アートが役に立つとデザインになっちゃう。サイエンスが役に立つと、エンジニアリングになっちゃう。

波頭 アートというのは人間の分野だけど、人間とロボットを分けるものは、最終的に、「意志」と「欲望」じゃないかと考えています。

島田 ロボットっていうのは、チェコ語の「労働」という言葉を語源にしていますよね。人間が楽をしたいから、人間の役に立つように労働をさせるのがロボットですよね。アートというのは、役に立たないものの総称と言ってもいいんだけど(笑)、それゆえに価値があると言えるわけですけどね。

伊藤 そう、そう。

島田 先ほど微生物の話がありましたけど、最近、微生物の本の書評を書いたんですよ。微生物って可能性だらけに見える。地球の生物種が九九%絶滅しても微生物が地球環境を改変して救ってくれる。逆に微生物が生物種を滅ぼす場合もあるけど、微生物はあんなに単細胞なのに、やっていることはすごく複雑で「微生物って思いの外やるじゃん」って感じでした(笑)。

西川 地球に酸素を生み出したのも最初は微生物だしね。

伊藤 微生物に関しては、面白い話があって、人間の腸は、世の中で一番高密度で生物が存在しているらしいんですよ。微生物から見ると、人間というのは一番いい「宇宙船」なんだよね。

チョコレートの栄養を一番使っているのも微生物で、人間がチョコレートを食べたいときは、微生物がチョコレートをほしがっている(笑)。

われわれが微生物をコントロールしているつもりでいるけど、微生物がわれわれの行動をコントロールしている。微生物のためにわれわれが存在しているっていう論文もあるんですよ。

西川 ゲノムの世界で言うと、人工甘味料っていうのは体の細胞は使えなくとも、腸内の微生物は使えるんです。だから、ダイエットしているつもりでも、微生物が使うから結局は栄養になる(笑)。

波頭 人間だ、猫だ、犬だという個体じゃなくて、それを突き動かしている一番上位にいる生物は微生物ってこと?(笑)。

山崎 そのときの微生物っていうのは、自分なんでしょうかね? 自分じゃないんでしょうかね?

ある程度の自己の単位があって、仮に、複製拡大しようというプログラムが中に入っていたときには、それが「意志」であり「欲望」ということになるんじゃないでしょうかね。

島田 ある芸能人が、ものを食べずに何日間も過ごしているという話を聞いて、少し調べてみたんですよ。インドの行者は、食べずに何カ月も生きているらしい。

上杉 一九八四年にインドのボパールで化学工場の事故がありましたよね。あのとき一人だけ生き残ったおじいさんは、ものを食べない行者だったそうですよ。食べないから呼吸が遅くて、軽傷で済んだそうです。

波頭 原典は確認できないんだけど、昔読んだ本で、禅宗のお坊さんが一日一匙のゴマだけ食べてずっと生き続けたらしいですよ。一週間で一〇〇キロカロリーくらい。そういうところから、霞を食べて生きているって出てきたんだと思うんですよ。

上杉 水泳選手が水に潜って息を止めているときには、考えると脳を使うから、考えないようにしているらしいです。

波頭 行者の瞑想も、脳を半分止めているそうです。

上杉 仮死状態にするんですよね。体の中の微生物を働かせると生き延びられる。

島田 葉緑体を体の中に蓄えれば光合成をして、栄養をとらなくても生きていけるんじゃないかと思うんですけどね(笑)。

西川 いや、栄養を取るのに光合成が必要という考え方は間違っていて、「オートトロフ」というバクテリアの種類があるんですよ。炭酸ガスと水素があれば、シュガーから何から何まですべてつくってくれる。葉緑体って必ずしもいらないんですよ。