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深刻化していく米国の分裂現象~米社会の分裂現象は、今後も30年間続く

キーノートスピーカー
伊藤貫(国際政治/米国金融政策アナリスト)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、團紀彦、茂木健一郎、山崎元

国民はなぜ「アウトサイダー」を支持したのか

こうした不自然な富の集中を生んだ原因は何か。それが、トランプ現象の二つ目の要因である「政治の腐敗」です。米国政治は、ウォール街の金融業者に牛耳られています。

米民主党は「労働者の味方、庶民の味方」と政治PRしていますが、実際には過去二七年間、米金融業者の政治献金の半分以上が民主党側に流れこんでいます。ヘッジファンド業者の献金の七割が、民主党側に流れています。クリントン政権・オバマ政権は、ブッシュ(父子)政権よりも、金融業と癒着していました。

二〇〇七~〇八年の世界金融恐慌を惹き起こした原因を作ったのも、クリントン政権です。ルービン財務長官、サマーズ財務長官、ガイトナー財務次官、グリーンスパンFRB議長は、ウォール街の金融業者の要求を全て受け入れていた。ルービンはゴールドマン・サックスとシティバンクという二つの大銀行の会長を務めた男ですが、非常に頭が良く、狡猾で冷酷な人物です。民主党のジム・ウェッブ前連邦上院議員は、「民主党はルービン閥に乗っ取られている」と嘆いています。クリントン政権の経済政策、IMF政策、対露政策、対日政策は、すべてルービンとサマーズに操られていた。

クリントン政権は、高リスクの投資銀行と低リスクの商業銀行業務を分離しておくグラス・スティーガル法を廃止してしまった。さらに危険きわまりない金融デリバティブを解禁し、質の低いジャンク住宅ローンを束にして債券化し、それに「トリプルA」の最高格付けをつけて市場に大量に流し込むという金融詐欺行為を認可しました。当然のことながら、巨大な不動産バブルと金融バブルが発生しました。

「リベラル派」を自称する政党が金融業者から多額の献金を受けとる構造は、米英仏に見られます。トニー・ブレアの政治資金マシーンに支配されてきた英労働党や最近の仏社会党も、金融機関からの政治献金に頼っています。米民主党、英労働党、仏社会党は、保守党や大手金融機関と協力して、貧富の差を拡大する経済政策を実行してきました。英米仏三ヵ国で、反グローバリズム・反自由貿易を標榜するナショナリスト勢力が台頭してきたのは、偶然ではありません。

米国政治は、「議員のロビイスト化」現象によって深刻な影響を受けています。一九七〇年代まで、連邦議員を辞めてロビイストになる者は、三~四%でした。ところが現在では下院議員の四二%、上院議員の五〇%が、議員辞職後にロビイストとして登録します。ロビイストと登録するのを避けて「アドバイザー」とか「コンサルタント」という肩書をつけて実際にはロビー活動をしている元議員を含めると、下院議員の五割、上院議員の九割が退職後、ロビイストになっています。

米連邦議員の年収はせいぜい二千数百万円です。先述のように、米トップ一%層の年収は約一・四億円です。議員の年収は、はるかに低いのです。

彼らは議員在職中の「耐乏生活」を、退職後に埋め合わせようとする。ロビイストになれば、年収が三~四倍に増えます。議会の委員長職を務めた人だと、年収は数億円になります。だから、辞めたあとにロビイストとしてたっぷり稼ぎたいと考える議員は、在職中から業界団体やロビー事務所のために必死で法案を通し、予算を付けます。こうして議員と業界との癒着が生まれ、政治が腐敗してきたのです。

ニューヨーク大学ロースクールの調査によると、二〇〇六年の州・市町村レベルの選挙資金のうち、献金者不明の資金は二五%でした。しかし二〇一四年には、七一%になっています。この出資者不明の資金は、「ダークマネー」と呼ばれています。

アメリカでは、慈善・社会福祉・人権・環境問題などに取り組む組織に対して献金する際、匿名で寄付できます。その分、納税額も低くなります。

ところが、巨富を持つ米金融業者からの政治資金が、「慈善」「福祉」「人権」等の組織を通じて、スーパーPAC(政治資金組織)に移動しているのです。その額は毎年、数百億円・数千億円に上ります。各組織は資金移行のパイプとなることによって手数料を得ています。

アメリカは二〇〇三年に国際法違反のイラク侵略戦争を実行しましたが、その時、民主党リベラル派の政治組織による反戦運動が見られなかった。これらの組織には、親イスラエル派の金融業者から多額の資金が入っていたからです。

ヒラリー・クリントンは、こうした政治資金の世界にどっぷり浸かっています。昨年、民主党の政治家が大統領選に立候補しようとしたが、クリントン夫妻が民主党政治資金の七~八割をコントロールしているため、出馬できませんでした。この状況に勇敢に立ち向かったのが、自称「社会主義者」サンダースです。サンダースは二〇一五年まで民主党員ではなかったのですが、突然、民主党員として出馬し、ヒラリーに挑戦しました。彼は予備選で四六%の票を獲得して、次点になりました。

トランプは昨年まで、民主党により多くの政治献金を出していました。しかし彼は突然、共和党の予備選に出馬して、勝ちました。昨年の米国民は、既存の職業政治家ではなく、サンダースやトランプのような「アウトサイダー」を応援したのです。米国民の民主・共和両党に対する不信感の強さを示す選挙でした。