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深刻化していく米国の分裂現象~米社会の分裂現象は、今後も30年間続く

キーノートスピーカー
伊藤貫(国際政治/米国金融政策アナリスト)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、團紀彦、茂木健一郎、山崎元

ディスカッション

島田 アメリカの大統領選には、プーチン大統領が介入していたといわれていますね。トランプ大統領は「プーチン大統領を尊敬している」と公言しています。一方プーチン大統領は、ロシアが連邦崩壊後に国際金融に食い物にされた恨みを抱いているようにも見える。トランプとプーチンが手を組み、ウォール街のシステムを根底から覆すというシナリオは考えられますか。

伊藤 ロシア経済はクリントン政権時代、ウォール街とイスラエルの金融業者に弄ばれて、酷い目に遭いました。ロシアのナショナリストは国際的金融業者とクリントン夫妻に対して、深い恨みを持っています。

プーチンとトランプには、性格的に似ているところがあります。二人とも少年時代、喧嘩腰の「マッチョ的」反逆児タイプでした。二人とも、ナショナリストです。トランプは金持ちの息子のくせに、ブルーカラーの悪童たちと遊ぶのが好きでした。彼の庶民感覚は、単なる見せかけではありません。彼は子供の頃から「アンチ・エリート」「アンチ・エスタブリッシュメント」でした。

トランプの思考に対して強い影響力を持っているのは、政治戦略担当官のスティーブン・バノンと司法長官のジェフ・セッションズです。トランプとこれら二人は、アメリカを十九世紀に戻したがっているように見えます。

米経済は一八八〇年代に世界最大になりましたが、当時のアメリカは、建国以来の「アンチ有色人種」「アンチ軍事同盟」「アンチ自由貿易」という三原則を貫く孤立主義国家でした。トランプ、バノン、セッションズの三人は、このような「十九世紀のアメリカ」を再興したがっているように見えます。

「アメリカはクリスチャン国家だ」と公言するのは政治的タブーとなっていますが、バノンはこれを強く主張します。カトリック右派のイエズス会修道院が経営する軍事学校で教育を受けたバノンは、アメリカが「クリスチャン国家」であることを公言し、ロシア正教のプーチンと一緒に、イスラム教文明圏と闘おうとしています。ハンティントンの『文明の衝突』のシナリオを、そのまま実行するつもりなのでしょうか?(苦笑)。

正しいかどうかは別として、彼らには彼らなりの思想と世界観があります。米マスコミ人は昨年の選挙で、九六対一の差でヒラリーに投票しました。米マスコミは、トランプ政権の世界観を、きちんと伝えていません。

波頭 アメリカのマスコミは、大統領選挙後も九六対一でアンチ・トランプなのですか。

伊藤 そうです。私から見れば米マスコミ人は、軽薄なのに、とても自惚れています。自分たちの考えを絶対的なものとして、米国民に押しつけようとしている。彼らは「何故、トランプ現象が起きたのか」ということを深く考えていません。米マスコミ人はトランプを馬鹿にすることに熱中して、米国の分裂現象の深刻さを分析しようとしません。

山崎 『エコノミスト』には、「ブレグジットなんか支持されるはずがない」「トランプが当選するわけがない」と書いてありました。読めば読むほど勘が狂う。読まないほうが、経済動向が掴めるのではないかとも。

伊藤先生のお話によれば、金融資本はリベラル政党の買収に成功したということですが、この仕組みが完成したのはクリントン政権時でしょうか。

伊藤 そうです。しかし以前から、兆候はありました。一九六〇年代から、アメリカ人の道徳的判断力が少しずつ低下しています。五〇年代までは「プロテスタント文化」の建前があって、公共心・自制心を保とうとする基準がありました。ところが六〇年代からカウンター・カルチャー運動が台頭し、共通の価値規範が失われました。その後、「自己利益の最大化こそ理性的」と主張するシカゴ学派的な判断が受け入れられるようになりました。