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激変する世界情勢と日中関係

キーノートスピーカー
富坂聰(ジャーナリスト/拓殖大学海外事情研究所教授)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、西川伸一、茂木健一郎、山崎元、上杉隆

波頭 日本では、大企業がそういうやり方をしています。本社と現場を行き来させて人材を育成しています。

茂木 中国の人は国家を超えてリスクヘッジをしますね。そういうモビリティが高い人たちは何を考えているのですか。もし中国に何かあれば、国外に出て行くのでしょうか。

富坂 一九九〇年代に日本企業が中国に進出したときに、彼らといちばん合わなかった考え方は「給料は安いけど、一生面倒を見るから我慢しなさい」というもの。中国の人は、会社が潰れても自分だけは生き残っていることを選びます。その姿勢は国に対しても同様です。

山崎 中国の不動産はどういう状況ですか。日本のバブルのレベルをはるかに超えているように思いますが。

富坂 地方予算の歳入の約六~七割を不動産売買からの収入に頼っています。この異常さを中国共産党の幹部はよくわかっていると思います。

波頭 ある中国の方から聞いた話ですが、最大の景気対策は戸籍緩和だそうです。農村部と違って、都市部に行くと教育や医療環境が整っていて、エンターテインメントも充実している。景気が悪くなったら、農村戸籍の人に都市のマンションを売り出すと、たちまち高値がつくそうです。

富坂 たしかに無戸籍の人に無条件で戸籍を与えると、不動産を購入する傾向がありますね。下がるはずの不動産が下がらないのは、それも理由の一つかもしれません。

山崎 でも、だんだん値が上がって年収の二十年分くらいの不動産を借金して買うような傾向が続けば、いずれ確実にバブルになりますよね。

波頭 農村戸籍の人は、経済合理性ではなく都市への憧れで不動産を買っているようです。「借金を返せなくなったら飛び降りればいい」くらいに考えていると聞きました。

富坂 いま北京や天津、河北省の一帯を中心に中国経済を盛り立てようとしていますが、党中央は不動産の高騰が起きないように調整しようとしています。中国政府が最も気にしているのは、不動産をハードランディングさせないことです。

山崎 ただそれが難しいということは、アメリカも日本も経験していますよね。借金で投資をしているわけだから、ポジションが逆に傾いたときには弱い。いつバブルがはじけるかはわかりませんが、たとえばアメリカが金融引き締めに入ったときに、中国の不動産への影響があるかもしれない。

上杉 ところで、中国ではどのようなメディア統制が行なわれているのですか。

富坂 中国共産党に忠誠を尽くすことをメディアに発表させました。先ほどの不動産問題とも関係しますが、不動産バブルが崩壊してそれが金融に波及したときには、風評を抑え込もうとする準備の意味もあるのではないでしょうか。

上杉 ホワイトハウスにはウェイボーの記者が三人入っているらしいですが、それは中国政府も認めているのですか。

富坂 中国が規制しているのは、党中央の政策や方針を正面から批判することと、政治局員以上の個人的なスキャンダルを暴くことです。その他のことはかなり自由に書かせています。日本のメディアで中国批判の記事が出ているときは、じつはほとんどが中国メディアの記事の翻訳です。中国国内では、かなり自由な批判記事が書かれているということです。

波頭 欧米メディアがアジア支局を東京から北京に移したときに、北京のほうが日本より自由に報道できると聞いたことがあります。日本では、行政からの発表と違うことを書くと次から入れてもらえなくなる。

上杉 ウェイボーの記者に話を聞いたら、オーナーの批判をしなければ問題ないといっていました。