では、資本主義とはそもそも何なのでしょうか。フリードリヒ・ハイエクは著書の中で以下のように言っています。「私有財産の自由な売買に基づく競争システムを資本主義というなら、私は資本主義に賛成しよう。⺠主主義と両立しうる経済システムは資本主義以外にはないのだから」。
資本主義の定義として、ハイエクが言う「私有財産における自由な売買に基づく競争システム」という表現は、割とサラッとしていて好感が持てますし、実際そういうものとしてやっていかざるを得ないのが現実です。私自身としては、そういう資本主義を擁護したい気持ちが半分はあります。ただ、現在の資本主義がろくでもない状況に陥っている側面も指摘しておく必要があります。
近ごろ、世界で株価が大幅に上がっていますね。その理由は、ひとえに金融緩和とそれを後押しする財政政策がコロナ禍によって生じているからです。財政政策が出てくるということは、溢れるお金に使い道を与えることを意味しますから、実質的なお金がさらに溢れ、よって株価は高くなるということです。
日本の株価もアメリカの株価も同様ですが、その上昇を支えているのはコロナ禍です。今アメリカでは医療保険に加入しておらず環境が悪い中で暮らしているエッセンシャルワーカーなどの人たちがコロナウイルスに感染してバタバタと亡くなったり、失業したりしています。政府として許容できない失業率となっている限り金融緩和は続くでしょうし、コロナ禍以外にも問題が起きる度に財政出動が起きて、株価はさらに上がっていきます。
また例えば、GAFA のような会社の幹部社員の多くは、ストックオプションをもらっていて、会社は巣ごもり消費によって好業績となっているため、株価はどんどん上昇していきます。そうして富裕層が生まれていく。こうした仕組みはコロナ禍が支えているもので、意図的に誰かによって作られたものではありません。
現在、株価の上昇はバブルっぽくなってきています。バブルは過剰な資金が投資に回ることによって起きるものです。今、資金を供給しているのは政府ですが、株価の形成構造自体はかなりバブルっぽい状況と言えます。
では、この株価上昇はいつ終わるのか。やはり金融が引き締められる時ということになるのでしょう。例えば、国債の買い入れを日銀がやめたとき。あるいは、ちょっと政策金利を上げようとする方向性になったとき、おそらく株価は大暴落する。
そう考えると、現在はコロナ禍があるがゆえにそれを踏み台にして株価を上げるという、投資家にとっては妙に都合の良い状況だということも言えるでしょう。今やコロナが株価を支えているのです。
情報産業や金融業界の人たちは、この構造を最大限に使う仕組みに気づいてきていてます。ろくでもない状況だけれど、資本主義のシステムは使わざるを得ない状況だから、ますます国の借金増、株高という方向になっていく。そうなると、重要になるのは分配政策です。
今、日本でも世界でも格差が拡大し、困っている貧困層の存在が富裕層をさらに富ませる状況になっていますから、その是正のための再分配には公平で効率的な仕組みが必要です。
現在の資本主義に欠陥が多々存在する点は否めません。しかし先に述べたように、我々は、個人が不自由で独裁体制につながりやすい社会・共産主義を採用することはできない。結局、我々はこのろくでもない資本主義の意思決定システムの機能を維持し、再分配の仕組みをうまく再構築するなどの手直しをしながら、何とか使っていくほかないということです。