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ろくでもない資本主義を手直しして使おう

キーノートスピーカー
山崎元(経済評論家)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、團紀彦、西川伸一、茂木健一郎、山崎元

 こういうのはどうでしょう。街にある、ある程度太い道路は官の管轄になる。街路樹の管理も自治体や国が行なっています。でも、狭い路地になると、街路樹は植えられませんね。

そうなると、⺠の緑ということになり塀で囲われた⺠家から外へはみ出す形で、緑が出てくる。しかしそれが街路樹の公的役割を果たしています。そうなると、初めから100%公的な空間を良くするために植えられた街路樹よりも、マイガーデンとして植えられた緑のほうが光って見えることが多々あります。例えば、浅草の路地。みんな家の前の道で盆栽をやっていますが、本来は違法です。

しかし、官がそんな面白い盆栽の側道空間を作れるかというと無理ですね。マイガーデンがどうなったかと、手入れしている人がいるから横から見ても素晴らしい空間となるわけです。

波頭 そういう機能を確保するためには、1億円の土地を2億円で買うと言っても、売らない権利を留保しておかないといけませんね。『ラディカル・マーケット脱・私有財産の世紀』は、1億円と値付けしていたものを2億円という人が出たら強制的に売らないといけないルールだから、逆に資本の横暴を招くのではないかと僕は思いました。

山崎 ただし、高く買うと損します。

波頭 独占あるいは寡占に行き着いたら大変なことになります。

山崎 もう⼀つ問題点があって、モノの生産では収穫逓減と言われるように、たくさん作るほど追加的な効率アップが減ります。ところが、情報産業の場合は、たくさんある情報を集めると飛躍的に価値が上がります。抱え込むほど利益が増えるような構造になっていたりする。

波頭 そういう情報の独占、寡占も大きな問題ですね。

山崎 独占、寡占は経済学が解決できない問題です。例えば、フェイスブックは、インスタグラムみたいな会社が成⻑してきたら、ライバルになる前に買ってしまう。グーグルがユーチューブを買ってしまうのも同じです。そういうことをどこまで許すのがいいのか。このシステムの作り方も非常に難しい。

波頭 もし解決策があるとしたら、所得の累進課税と同じように、産業資本すなわち総資産への累進税率の適用です。資産が膨張するほど、累進税率で高く税金を取る。これをやると、独占に対するある程度の⻭止めにはなるでしょう。

山崎 資産税を累進的にすることによって収穫逓減を強制的に作り出すのですね。

波頭 そうです。累進性を強化した資産税など、資産の膨張に対してディスインセンティブをいかに効かせるか──。それがもしかしたら、これだけ巨大化した資本主義への処方箋の端緒になるかもしれません。ただし、それは資本の効率性を損なう。そこが難しいところです。

西川 いま波頭さんの話を聞いていて、頭に浮かんだのは南アフリカです。訪れたことがあるのですが、この国は⺠主主義と資本主義が完全に分離しています。今もほとんど白人が資本を独占していて、なぜ⺠主主義にしないのかとても不思議です。

波頭 アメリカも⺠主主義が徹底しているのに7割の人が豊かにならない(貧困層のまま)。⺠主党、共和党の政権は関係なく貧困層が増えていく。それは⺠主主義自体が機能しなくなっているからです。

島田 ニューヨークのマンハッタンは土地が狭い都市なので、不動産を持つことは可能ですが、投資目的で買うことはできません。住まないと買えないというルールです。

⼀方、同じ狭い都市のベネチアは投資で買うこともできるが、マンハッタンほど値上がりはしません。ベネチアだと、産業が土産物屋くらいしかないからです。

ベネチアが商業的に発展したのは14世紀のことで、15世紀にはすでに発展が終わっていて街全体が博物館になっています。ちなみに、ベネチア本島にある緑は個人宅の中庭だけですが、浅草の盆栽通りと同じように、やはり市⺠が必死になって街の緑を守っています。