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「美の競争優位」がなぜ求められるのか?

キーノートスピーカー
山口周(コーン・フェリー・ヘイグループ シニア・クライアント・パートナー)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、團紀彦、西川伸一、茂木健一郎、山崎元、上杉隆

グローバル・ニッチの潜在力

上杉 日本の場合、スタートアップ企業でも資金調達額を競ってしまう。海外では、インドでもベトナムでも、初動ではなく何を成し遂げたかで評価されます。一見「これは何の役に立つの?」と思うものが少なくないものの、あとから価値を生んでくる。

山崎 アートが経営に組み込まれ、ビジネスで勝つために収斂されていくと、あまり面白くないですよね。問題を定義するのは儲けるためで、ビジネスで勝つには問題を先に見つけなければいけない、ではそのためのテクニックは何か、といった意識は流行るかもしれません。しかしその結果、アートが平凡なものになってしまう可能性がある。

山口 日本には、国内市場ではシェアを誇っているのに、世界では他企業の後塵を拝する企業が少なくありません。ローカル・メジャーか、グローバル・ニッチかで分けると、後者のほうがこれからは価値が高い。日本国内一億二〇〇〇万人の半数の人に好まれるものをつくって五〇%を確保するより、世界七〇億人の一%を押さえたほうが、潜在的なマーケットは大きい。

一%の人を対象に切っ先の鋭いものをつくると、国内では儲かりませんが、グローバル・マーケットでは勝負できます。たとえばイタリアのファッションブランドのブルネロ・クチネリは、ニットのセーターが三〇万円ほどの値段なので一%の人しか買えません。しかし先進国に熱烈なファンが多く、エルメスと同等のブランド価値をもっているといわれています。

役に立つかどうかを考えるよりも、アートのようにつくりたいものをつくれば、グローバル・マーケットで活路を見出せると思います。

西川 創薬の世界でも、肝炎ウィルスの薬をつくっても儲からないと考えられていた時代に、それ一点に絞ったギリアド・サイエンシズという製薬会社があります。同社は一九八七年の創業にもかかわらず、いまでは製薬会社の売上高で世界トップ一〇に入っています。

山口 期せずしてグローバル・ニッチで売れ、生産が追い付いていないのが南部鉄瓶です。最近は欧米や中国の富裕層が買い始めて、市場規模が一〇倍になってしまった。

 南部鉄瓶は見た目もきれいだから、みんながほしいと思うのはよくわかります。

アート中心というのは重要なコンセプトだと思いますが、現代美術の現状は行き詰まっています。現代美術はグッチなどのブランドと似た動きをしており、ブランドの覇権競争になっている。美術館の権威で価値を高め、「何億円の値が付いた」といった手法には皆疲れてしまい、それよりも名もない小さなギャラリーのほうがいいという人もいる。南部鉄瓶も小さな空間から広がったのではないかと思います。

いまの日本のアートはあれもこれもと欲張りすぎた反動か、ビジョンやポリシーを大事にしたほうがいいのではないか、という流れに揺れ動いている。どういう方向にアートが向かっていくかの議論も重要でしょう。

島田 今日のお話で、人文系の人間が少し威張れるようになったと思って、何だか励まされました(笑)。

山口 いまは、会社に文学を導入することが大事な時代です。同じ能力をもっている人で、意味を与えてあげないと不活性でも、ストーリーを与えてあげることで燃え立つことがあります。ストーリーやビジョンを提起できるリーダーとできないリーダーでは、業績の開きが大きくなる時代に来ていると思います。