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ネオコンとロシア:ウクライナ戦争のもう一つの視座

キーノートスピーカー
神保哲生(ジャーナリスト)
ディスカッション
波頭亮、神保哲生、團紀彦、中島岳志、西川伸一、茂木健一郎、山崎元

 話は変わりますが、アメリカの国民からは、ネオコンという一派はどのように見られているんでしょうか。たとえば「バイデンはネオコンの傀儡である」といった見られ方をしている部分もあったりはするのでしょうか。最近ではバイデンも支持率を落としていて、それは「バイデンは進むべきでない道を進んでいる」と評価する人々が増えつつあるからだと聞いていますが、ネオコンと政権との関係がその評価にどの程度影響しているのかは気になります。

神保 そこはすごく面白いところだと思っているのですが、日本人で多少アメリカの政治に関心がある人は、アメリカの政治をある程度俯瞰したり相対的に見たりするなかで、主に日本への影響の有無という文脈で考えるために、誰がネオコンかについてはある程度敏感にならざるを得ないところがあります。しかしアメリカ国内では、一般の人たちにとって、誰がネオコンかはあまり大きな意味を持っていません。でもそれは、日本人の日本の政治家に対する見方にも同じように当てはまる話ではないかと思います。アメリカの日本研究者は、日本の政治家を「親米」か「反米」かなどで色分けしますが、多くの日本人は日本の政治家のアメリカに対するスタンスに、それほど関心がないのではないでしょうか。

おそらく自国の政治の見方というのは、情報が多く入るぶん近視眼的になりがちなのだと思います。報道などを通して政治家の人物像のようなものまで目にしがちになるからこそ、「あえてカテゴリー分けすればここだろう」といった把握がなされづらくなるのでしょう。他方で外国の政治家となると、実際に話しているところをテレビで目にすることさえない人たちばかりなので、かえってカテゴリーで粗く理解することが可能になるし、各カテゴリーについて理解することでその国の政治をマクロに把握できたりするのではないでしょうか。

 まさしく「木を見て森を見ず」になりがちと言いますか。

神保 距離が近すぎるがゆえに、どうしても「木」の方が目立ってしまうんですよね。あとは、そういう報道がないこともやはり問題なのかなとは思います。日本でもアメリカでもそうですが、自国の政治家をマクロな視座からカテゴリー分けするような報道を見ることはそう多くないのが実情かなと思います。

 ありがとうございます。話が変わりますが、もう一つ是非お伺いしたいのが、ネオコンとユダヤとの関係についてです。スピーチの中で「ネオコンのルーツはロシアから逃れてきたユダヤ系の人たちである」といったお話がありましたが、クリストルやケーガンといった人たちもユダヤ系なんですよね。

神保 その通りです。ネオコン論者の中にはユダヤ系ではない人もいることはいますが、枢要は圧倒的にユダヤ系によって占められています。ちなみにゼレンスキーもユダヤ系の生まれです。

 ネオコンの人たちの中には、ロシアに対する敵対心みたいなものはあるのでしょうか。帝政ロシア時代にたびたびポグロム(ユダヤ人に対する集団的な迫害行為)が行われたことで、ユダヤ系の人々の中にロシア人に対する民族的な恨みが培われ、それがたとえば日露戦争時にジェイコブ・シフが高橋是清に対して多額の戦費を支援するといった出来事につながったとされています。現在もプーチンがミハイル・ホドルコフスキーを投獄したり、その前のエリツィンの時代にも、ロシアを席巻していたユダヤ資本をパージする動きがあったりと、歴史上ロシアにおいては反ユダヤ的な動きはしばしば見られるものでした。ネオコン勢力のユダヤ系の人々の間には、ロシアに対する民族的な恨みのようなものはやはり一定あり、それが今回の戦争を継続するモチベーションになっているところはあるのでしょうか。

神保 それはもちろんあると思います。ネオコンを理解するうえで、彼らがトロツキストであったことはやはり無視できないポイントです。レーニンの死後、ソ連は一気に敵対勢力の弾圧と専制的な統治に傾き、トロツキーも迫害を受けたすえ、結局メキシコで暗殺されてしまうわけですが、ネオコンのルーツにあたる人たちは、そうしたスターリン下のソ連の変貌ぶりに幻滅して国外に逃げてきた人々です。それゆえネオコンの一つの特徴として、スターリン型の統治を強く敵視しているところがあり、その意味で今の専制主義的なプーチン下のロシアに対する警戒心や嫌悪感はかなり強いと思います。もちろんそこには、自分たち自身が迫害を受けたことへの恨みも絡んでいるかもしれません。

 ユダヤ系の人たちの顕著な特徴として、国境を越えてオープンに結束しようとするところがあります。トロツキーは結局、それを推し進めようとしたすえに暗殺されて最期を迎えました。同じような経緯を辿った人物として、チェ・ゲバラの名前も挙げられるでしょう。私の友人の建築家にもユダヤ系の人たちが多くいますが、やはり地域主義や伝統を嫌って脱国境主義やグローバルな共通言語を志向する傾向は強いと感じますし、そういう気風が建築の文化すらも形づくってきたことは実感としてよくわかります。バウハウスも、元はと言えばユダヤ系の人たちに端を発しています。そういった意味で、グローバリズムそのものが、かなりユダヤ主義的な性格を帯びたものであるということは言えると思います。