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リーダーシップ構造論:リーダーシップ発現のファクターと開発の施策

キーノートスピーカー
波頭亮(経済評論家)
ディスカッション
團紀彦、南場智子、西川伸一、岸本周平、櫻井敬子、國信重幸

3.リーダーシップ構造論 (1)リーダーシップとマネジメント

まず、リーダーシップとはどういうものとして定義するのか。これは、先ほど言ったコッターの定義とほとんど一緒です。「人の心に働きかけて、啓発と動機づけによって人を動かす」。一方、マネジメントの定義は、「ルールや制度を組織メンバーの行動に適用し、組織集団を動かす」ものです。要するに、人の集団を動かす方法論は二つあります。一つがリーダーシップ(啓発と動機づけ)で動かすもの、もう一つが、マネジメント(ルールの適用)で動かす、というものです。リーダーシップ方法論とマネジメント方法論の内容について、個別の観点で見ていきます。

まず作用形態ですが、リーダーシップ方法論では、「リーダーの属人力を根拠として、啓発と動機づけによって作用」する、マネジメント方法論では、「契約を根拠として、指示と管理によって作用」すると考えます。

次に、どういう有効性があるかを見てみます。リーダーシップ方法論では、規則やルールに従って動くわけではなくて、そのリーダーに従おう、リーダーと協調しようという動機で動くので、ルールや制度に縛られません。そのため、規制に縛られない行動が可能なので、柔軟です。しかも、自発的に動こうとするので、自律的なモチベーションが高く、他律的な行動ではありません。

それではマネジメント方法論には有効性がないのかというと、全然そうではありません。明快で整合的な業務分担が可能です。つまり、ルールと規則で規律正しく動けるので、複雑で多様な企業行動あるいは大集団の行動に整合性と合理性を与えます。ですから、誰がやっても同じようなアウトプットが出せますから、効率性と再現性に圧倒的に優れています。

したがって、それぞれの適用を考えますと、リーダーシップ方法論は、変化への対応、創造的業務に向いていますし、マネジメント方法論は、定常的、標準的業務に向いている。このような適用の違いがあります。これが大前提です。

(2)リーダーシップ構造論

いよいよ、私流のリーダーシップ構造論に入ります。

もう一度、リーダーシップがどういうふうに発生するのかをミクロで考えてみます。まず、リーダーとフォロワーが一緒に作業すると、二人の間に言葉や交流が発生します。そこにコミュニケーションが存在して、第2段階に行きます。リーダーを見ていて、「この人は、ついていくに足る」という承認行為がフォロワーに起きます。「この人についていこう」という気持ちが発生するわけですから、その時点ですでに事実上のリーダーシップが発生しています。それが第3段階で行動が発生することによってリーダーシップが発現する。これがプロセスです。

各段階で何が鍵になっているのかを一つひとつ見てみます。コミュニケーションがないと始まらない。ついていくに足るという資質を持っていなければいけない。ただし、これこそ心理学の話になりますけれども、同じ資質やキャラクターでも、ケミストリーが合わないとリーダーシップというものは発生しません。すごく優秀な人でも、嫌いだったら、嫌いというのは相性が悪いことですが、承認しないんです。承認に非常に強く左右するのは、人間と人間の間のケミストリーという概念です。これをここで一つ採用します。

行動の発生のところでは、「ついていく」という意思のところもそうですが、クリエイティビティースペースが大事だと考えています。これは、工夫したり自分で決めたりする余地です。あるいは、決める余地と行動する余地です。極論すると、ベルトコンベアーについてずっとねじを回している作業だったら、わざわざルールや規則を越えてでもリーダーについていく必要もないし、そんなことを思いもしない。だから、どういう環境で、どういう作業に携わっているかによって違ってきます。創意と工夫の余地がある環境になければ、つまりクリエイティビティースペースを持っていなければ、この人についていこうと思いもしないし、ついていく必要性もないという状況になります。

ですから、リーダーシップ発現の一義的ファクターは、まず「リーダーシップコア」、この人についていきたいと思わせる資質です。これはリーダーが属人的に保有するものです。しかし、それを持っている人であっても、承認してもらうために必要なのが「コミュニケーション」です。そして、このコミュニケーションを通じて、承認し得るだけの「ケミストリー」が必要です。馬が合う合わないということです。さらに、ついていこうと思う必要性と必然性があるかどうかの「クリエイティビティースペース」。この四つを一義的なファクターとして定めました。

これはミクロの関係性ファクターですが、企業組織の中でこれがどういう組織論的ファクターに転換されるかというと、「リーダーシップコア」はリーダーの属人的な資質ですから、「リーダーシップコア」のままです。「ケミストリー」は、どういう「チーム編成」をするかという話になります。「クリエイティビティースペース」は、先ほどねじを回す作業の話をしましたが、どういう仕事、どういうミッションに携わっているかという「タスク特性」の話になります。また、100人の部でやっているのか、5人のプロジェクトチームでやっているのかという組織サイズや組織の階層、どれぐらい自律的な意思決定の権限があるかどうかという制度やルールという「組織特性」の話になります。リーダーシップ発現の組織運営ファクターはこの四つです。

それをまとめたものが、リーダーシップ構造論の基本骨格です。リーダーシップが発生あるいは発現するのは、リーダーの属人的資質である「リーダーシップコア」(この人についていこうと思わせる資質)をリーダーが保有し、しかも組織環境条件が次の三つにおいて整っている場合です。第一に、そのリーダーを承認できるような「チームケミストリー」かあるかどうか。すなわち、相性が合うチーム編成になっているかということ。第二に、どういう仕事に携わらせているかという「タスク特性」(ジョブデザイン)。どういう組織骨格、組織サイズ、組織運営ルールの中で動いているかという「組織特性」(組織制度設計)。この「リーダーの属人的資質」と「組織環境条件」が車の両輪として整った場合に、リーダーシップが有効に発生、発現します。