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転換期を迎えた4つの方法論:揺り戻しかアウフヘーベンか

キーノートスピーカー
波頭亮(評論家)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、神保哲生、西川伸一、茂木健一郎、山崎元

茂木 2009年に⺠主党政権が誕生したとき、電波監理委員会を作ろうという話がありましたね。

神保 ⺠主党の公約(マニュフェスト)に入っていました。原口総務大臣(当時)が会見で電波監理委員会の設⽴に言及した。しかし、すべての既存メディアがその話を完全に無視したのです。1行も書いていない。

彼ら(既存メディア)に言わせれば、原口大臣がそう言っても、政府内での調整もできておらず、実現するわけがない。だから報道する意味もないということでしょう。しかし、電波監理委員会復活は日本の既存メディアにとっては非常に不都合な話です。明らかにニュース性なしという言い訳をしながら本音では意図的に黙殺したわけです。

一方、既存メディア以外の人々には電波監理委員会復活の意味が理解されません。メジャーな週刊誌でもわからない。だから、結局電波監理委員会復活は悪い冗談みたいな形で終わってしまいました。

話を元に戻しますが、今はメディアを巡る状況が激変しており、どんなに知的水準の高い人たちがいいアイデアを出し合っても、社会的コンセンサスを得ていく方法を見いだすことは困難になっています。

では、そういう状況のもと、今日の⺠意はどうなっているのかというと、もの凄くわかりやすくないと支持されないのが特徴となっています。嘘みたいにわかりやすくないと、まず⺠意は付いてこれない、ひいてはコンセンサスが取れない。ここが非常に難しいところです。

とても難しいことを誰でもわかるような文脈や用語を使って説明できるようになっていないと、実現の可能性はほとんどないということです。

仮にある話に対して、ほんの一部の人が本当の文脈を理解しているとしても、多くの人たちは単純に自分に得かどうかだけで支持したり、支持しなかったりする。なので、途中からまったく違う内容のものになっていくパターンが至るところで繰り返されているのが今の実態です。

結局、本当の意味は理解されない。したがって、今のメディア環境の中では、どんなに崇高な議論をしても無駄であるという状況になってしまっています。それを言っても、どうせ理解されませんよ、という話です。

では、メディアはどうして損得を優先するようなダメな状態になってしまったのかという、波頭さんの質問についてです。

メディアが凋落した原因の一つは、特権的地位が前提となっているビジネスモデルが崩れつつある今も、日本の場合は未だに放送免許を政府が与えているし、記者クラブという優先権も未だに日本新聞協会加盟社のみに与えているからです。

もう一つは、既存メディアは未だに再販制度を維持していることです。再販制度とは、戦後まだ日本が焼け野原だったとき、新聞は誰でも同じ料金で読めて、かつ遠い地方でも宅配されるよう、新聞社が決めた料金を定価にするという市場原理を無視した価格維持制度です。

つまり新聞社が儲かるようにしたのですが、今や発行部数世界1位と2位が日本の新聞社(1位読売新聞、2位朝日新聞)となっています。その意味は、本来、日本の購読者はもっと安く読めるのに毎月高い値段を払って新聞社を保護しているということです。

この再販制度は、新聞、雑誌、書籍が対象であって、テレビ局は関係ありません。しかし、日本では放送局と新聞社を同じ資本で保有するクロスオーナーシップ制が規制なく行われているため、テレビのニュースでも再販制度の是非については一切報道されません。

私は15年くらい前から再販制度を問題だと指摘し始めたのですが、それ以来テレビからはまったく出演の声がかからなくなりました。危険人物扱いになったのでしょう。それ以前は普通に出ていましたから、再販制度はテレビでも絶対に触れてはいけないものの一つということです。

再販制、放送局と新聞社のクロスオーナーシップ制、記者クラブ制という3つが日本では「メディアの三種の神器」と言われています。日本の既存メディアが世界の中でも珍しく今も高いシェアを維持できている理由は、日本のマスコミはこの3つの利権を今も持っているからです。

この3つは、いずれも政府が与えている特権です。閣議決定で再販制が維持されています。記者クラブ制は、国会など政府の施設専有権によって、事実上既存マスコミ以外の人にはアクセスの制限ができてしまっています。

なので、私はジャーナリストですが役所の建物には勝手に入れません。しかし、記者クラブの人たちにはIDカードが発行され、自由に入れるから記者会見にもアクセスできるのです。

この記者クラブの特権も、放送免許も政府が認めているものです。結局、既存マスコミは政府に守ってもらって繁栄を築いていたということです。

このような特権に乗って、今日まで生き残りを図ってきた日本のマスコミですが、インターネットの時代となって徐々に崩壊する運命にあります。しかし、その崩れ方がアメリカとは異なり、少しずつのため、新しいメディアが育つのにも非常に時間がかかっているのが実情です。

実は先日(2021年2月21日)、私の主宰する「ビデオニュース・ドットコム」の紹介記事が東京新聞に出ました。20年やっていて、新聞に取り上げられたのは初めてのことです。

我々は報道を大上段に掲げてやっているインターネット事業者です。報道は既存メディアの彼らからすると絶対に他の人間(記者クラブ外の人)が触れてはいけないはずです。わざわざ敵に塩を送る行為ですから、これまで取り上げてもらえなかったのです。

今回東京新聞が我々を取り上げたのは、メディアの空気が変わったのか、たんなるミスだったのか、測りかねているのですが、いずれにしても大事件です。

記者クラブの中にいる東京新聞が外にいるネットのメディアを紹介したら、まさに塩を送る行為になりますが、実際、東京新聞に取り上げられた瞬間、アクセスが急に伸びました。ふだん新聞しか読んでいない人の多くがビデオニュース・ドットコムを知りません。その人たちが一⻫にアクセスしてくれました。

波頭 それは既存メディアの影響力がまだそこまで大きいということですね。