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日本のメディアの構造問題とジャーナリズム

キーノートスピーカー
神保哲生(ジャーナリスト)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、神保哲生、西川伸一、茂木健一郎、山崎元

キーノートスピーチ:日本のメディアの特殊性

神保 本日は日本のジャーナリズムについてお話します。日本の報道およびジャーナリズムが抱えている欧米とは異なる特殊な構造問題を指摘したものとなります。

日本のメディアの特殊性とは何か。そして、なぜ先進国の中で日本だけメディアが特殊なのか。その特殊性を生んでいる大本には、記者クラブ、再販価格維持制度、クロスオーナーシップという海外の先進国ではまずありえない仕組みが存在します。

神保哲生氏

この3つの仕組みは、日本政府がメディアの会社に与えている巨大な利権であり、それゆえ日本の大手メディアは巨大化してきました。しかし今日ではインターネットの普及によって既存メディアは衰退の一途を辿っています。

アメリカではすでに大半の地方新聞社が消滅する事態になってしまっていますが、日本では今も3つの巨大利権があるゆえに既存メディアが軒並み崩壊するような事態には至っていません。

我々は日常的にメディア(ニュースや報道)に触れていますが、日本人の多くがメディアに関する基礎知識が欠如しています。それは日本には基本的なメディア教育がありませんし、メディア自身が自分たちに不都合なことを知らせようとしないからです。なので今日はまず、日本のメディア業界に存在する3大利権について説明する前に、まずメディア学のイロハについて簡単にお話します。

メディアという言葉の語源は、ラテン語のmedium(メディウム)で、媒介、仲介、介在などを意味する言葉です。その複数形がメディアです。メディアには複数の種類があり、広告、広報、口コミなどと並んでジャーナリズム(報道)があります。

他のメディアとの対比でジャーナリズムを定義すると、公平性や中立性が担保された情報を運ぶメディアがジャーナリズムの特徴ということになります。ジャーナリズムは、民主主義国家のもとでは、社会に必要不可欠な機能です。

なぜならば、民主主義のもとではわれわれ主権者が自ら意思決定をしなければなりませんが、その意思決定をするためには、自分たちの国や社会がどのような状態にあるのかや、自分たちが権限を負託した政府が何をやっているのかについて、真に受けていい情報、すなわち最低限の中立性や公平性が担保された情報がなければ、正しい判断ができないからです。

中立性とか公平性などと言うと、絶対的な中立性などあり得ないなどと、すぐに神学論争を持ち出す人がいますが、そんなに難しい話ではありません。ここで言う真に受けていい情報とは、その情報が誰かを有利にするための情報、例えば広告や広報のように、特定の商品を売るためだったり、特定の企業のイメージをよくするためだったりなど、私的な利益を目的としたものではなく、その事実を知ってもらうこと自体が目的である情報であれば、それは一定の中立性が担保されている情報ということになります。

日本では中立性と中道性が混同されている面も多分にあります。別に真ん中に立っていなくてもいいから、掘るときにはまっすぐに掘らなければならない。どこかに誘導するために歪んだ掘り方をしてはいけない。この中立・公正の概念と、とりあえず真ん中あたりに立っておけばいいという中道性との違いを理解することはとても重要です。

市民社会は掛け値なしで真に受けていい情報源がないと、有権者としても消費者としても、正しく意思決定を下すことが難しくなります。結果的に、自分たちに損になる政党に投票してしまったり、損になる商品を買ってしまったりしかねません。また、自分が知らないうちに、特定の人や団体を利する決定を下し、そのような行動を取ってしまっているかもしれません。

主権者にとってこれでは自分の権利が侵害されていることになります。そのようなことが起きないために、中立性が担保されていて、真に受けてもいい信頼できる情報を提供してくれるジャーナリズムが必要になるわけです。

日本のメディアを巡る環境は、諸外国と比べて極めて特殊です。その特殊性についてこれから説明していきますが、日本のメディアの形は日本の民主主義の現状をほぼそのまま反映していると言っても過言ではないと思います。それはまた、目下の日本の惨状は、日本のメディアの惨状の映し鏡になっていると言えると思います。