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日本のメディアの構造問題とジャーナリズム

キーノートスピーカー
神保哲生(ジャーナリスト)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、神保哲生、西川伸一、茂木健一郎、山崎元

ニュースソースを独占する記者クラブ

1958年に、政府庁舎の施設利用に関する大蔵省管財局長通達というものが出されました。この通達は必要に応じて外部の事業者が政府庁舎の敷地を利用できるようにすることを通達するもので、通達の中に医療機関や清掃業者などと並んで「新聞記者室」という表記があり、それに基づいて、各省庁には報道記者用の部屋が用意され、記者クラブが無償で占有しています。ただし、通達には「新聞記者室」と書かれているだけで記者クラブとは一言も書かれていませんので、現在のように日本新聞協会加盟社の記者のみが加盟できる記者クラブが各省庁の記者室を占有している状態には、何の法的根拠もありません。各省庁の記者クラブが、私のようなどこからどう見ても記者でしかない人間の出入りを認めない状況は、むしろ不法占拠と言った方がいいかもしれません。

なお、記者クラブというのは通称で、各省庁の記者クラブにはだいたい固有の名前が付いています。財務省の記者クラブは「ざいけん(財政研究会)」、外務省は「霞クラブ」で、記者室にはそれぞれ記者クラブ名の看板がかかっています。記者室を占有する法的根拠は何もないのに勝手に看板までかけているんですね。そして、「霞クラブ」に加盟していない私が記者室に入ろうとすると、何の用ですか、という感じで、自由に出入りができません。いや、そもそも今は省庁の建物に入るためにも入館証が無いと入れないので、記者クラブの入り口までも行けなくなってしまいました。もちろん記者クラブに加盟する記者たちは省庁から入館証を発行してもらっています。

日本の省庁の記者会見場は記者室に隣接して設けられています。だから、記者クラブ室に入れない記者は記者会見に出られないなんていう問題が生じます。日本で一般に記者会見と言われているものは、実は記者会見でも何でもなく、大臣や役人と記者クラブという団体との間の懇親会だということです。そう聞けば、なぜ記者会見での記者クラブの記者からの質問があんなに生温いのかも納得がいくのではないでしょうか。

2009年に誕生した民主党政権によって、大臣会見だけはオープン化が図られました。しかし、大臣以外の大半の記者会見は今もオープン化されておらず、記者クラブだけを対象としたレクになっています。そもそも大臣会見以外の会見やレクは予めスケジュールも決まっていない上、記者クラブ以外にはその連絡も来ないので、記者クラブに常駐する記者以外は物理的に参加することが不可能です。実際はその記者会見だって国民の税金で運営されているものですが、こうして政府とほんの一握りの記者の間だけで情報が独占され、談合的な関係が今も続いているわけです。

民主党政権による大臣会見のオープン化によって、大臣会見だけは一定の条件を満たせば記者クラブに加盟しない記者も参加できるようになりました。これは週2回の大臣会見は毎回閣議後と決まっているため、事前に連絡をもらえなくても、会見の開始時間がおおよその予想が付くからです。大臣会見で問い質せることはほんの一部に過ぎませんが、それでも記者クラブ以外の記者が会見で大臣に直接政府やその省庁の正式な立場を質せるようになったことは大きな意味を持っていました。

民主党政権から第二次安倍政権への移行後も、記者会見の表面的なオープン化は踏襲されましたが、特に総理会見での質問は記者クラブ加盟社の記者に限定されるようになりました。民主党政権下で記者会見のオープン化は約束されたけど、質問をする機会までは約束していないというのが、安倍政権の立場でした。

安倍政権の末期は政権に勢いがなくなり、フリーの記者やネットメディアにも質問を当てざるをえない状況に追い込まれましたが、新型コロナの感染が始まってからは、密を避けるという格好の言い訳ができたので、記者会見に参加できる記者数を極端に絞り込み、記者クラブ加盟の記者以外は抽選制になってしまいました。菅政権もその方法を踏襲しています。そのため記者クラブに加盟していない私(私はネットメディア枠となります)やフリーランスの記者は3回に1回くらいしか総理会見には参加できず、質問をする機会は更に少ないため、質問ができた時は、宝くじに当たったような感覚です。

この記者クラブのカラクリをまとめたのが以下の表です。すべての省庁だけでなく、都道府県庁や主要都市にも同様の県政クラブ、市政クラブなどの記者クラブがあります。また、警視庁並びに各県警本部にも必ず記者クラブがあります。さらに、経団連など主要な経済団体にも記者クラブがあります。

記者クラブのカラクリとは

記者クラブは、記者が占有できる部屋が無償で提供されていること(行政との癒着)と、日本新聞協会に所属する記者しか加盟資格がないこと(排他性)、通常記者会見上が隣接、もしくは記者クラブ内に設置されていて、記者クラブ加盟社しか参加できなくなっていること(排他性)などがその特徴です。したがって、記者クラブは市民の生殺与奪を握る行政情報への独占的なアクセスが保障されており、それはすなわち他のメディアの情報収集が自動的にブロックされていることを意味します。

記者クラブのメンバーは全国紙と地方紙とテレビ局と通信社です。全国紙5紙(朝日、毎日、読売、産経、日本経済)とそこと系列化されている全国ネットの放送局5局(フジ、日テレ、TBS、朝日、テレビ東京)、それに通信社2社(共同、時事)とNHK、それに通常はブロック紙と呼ばれる地方紙の親玉のような新聞社3社(北海道新聞社、中日新聞社、西日本新聞社)を含む16社が、ほぼ全ての記者クラブに常駐社として記者を配置しています。私はこれを16社体制と呼んでいます。

この枠から除外されている主なメディアは、外国報道機関と日本雑誌協会加盟の雑誌社、それから専門紙。ちなみに、夕刊紙の日刊ゲンダイと夕刊フジは一見新聞に見えますが、2紙とも雑誌扱いのため記者クラブには入れません。一方、ジャパンタイムスは英字紙でも日本で発行される新聞のため日本新聞協会に加盟しており、よって記者クラブに加盟しています。もちろんわれわれのようなネットメディアやフリーランスも除外対象です。