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日本のメディアの構造問題とジャーナリズム

キーノートスピーカー
神保哲生(ジャーナリスト)
ディスカッション
波頭亮、島田雅彦、神保哲生、西川伸一、茂木健一郎、山崎元

市場原理に対抗する理念とは

神保 アメリカは市場原理に委ねることで医療費を抑制し、イギリスは社会主義的手法で抑制しているということですね。

一方、日本はどちらもない。市場原理も、社会主義路線も、潰す人は出てくるが、こういう仕組みを入れて抑制しようというアイデアを打ち出す人がいないために、フリーフォール状態といいますか、あがりっぱなしになってしまう。

政治家などが改革のために意味のある提案をしても、当然削減のための提案なら、それは誰かの利権に触れるので、潰される。日本はそのパターンを繰り返しています。

島田 いまのイギリスのGPの話を聞き、イギリスでは公衆衛生の理想というか、信念は維持されているように見えます。一方、日本は理想が資本の原理に回収されてしまっている。

神保 本物の資本の原理だったら、アメリカのようにどこかで市場原理が効いてくるはずですが、日本は既得権益が損をしそうになると、市場原理も平気で歪めます。

西川 いまここで私が倒れて救急車で運ばれるとき、日本の救急隊は私の患者データがわからないけれど、アメリカだったら患者のポータル情報があるから、救急隊は番号で基礎疾患を知ることができる。それは医療費の問題だけでなく、命の問題でもありますね。

神保 リモート診察も長らく課題でしたが、潰され続けてきました。家庭医もいない、リモート診察もできない。で、保健所がパンクしそうだからPCR検査は増やせないのが日本です。

また、PCR検査については、感染研と厚労省が癒着関係の中でデータを独占したいという目的から民間に委託をしなかった。安倍総理が記者会見でPCR検査を増やそうとしても増えないのはどこかに目詰まりがあるが、どこに目詰まりがあるかわからないと言ったのですが、実際はどこに目詰まりがあるかは自明です。総理もわかっているはずです。単に、そこまでやるポリティカル・ウィルがないだけだと思います。

しかし、この問題をメディアが報じないのは、政権や既得権益に忖度しているのではなく、下手をすると単に無能だからなのかもしれません。かつては、利権や忖度のために、メディアがわかっているのに報じないというようなことがよくありましたが、いまはメディアが本当のことを単純に知らない場合が増えているように思います。

島田 徒労感からか、いまのメディアは政府に対して異論を唱えるモチベーションが非常に落ちているように見えます。

イデオロギーや理想が生きていた時代は、メディアもイデオロギー的に異議申し立てをしていました。いまはそれがなくなって、効率ベースの報道がなされており、そして人々は騙されやすくなりました。

神保 いまの日本には市場原理に対抗するイデオロギーや理想がまったくありません。やはりそれが根底にある問題点なのだと思います。